前著『読みたいことを、書けばいい。』が16万部を突破した田中泰延氏の新作『会って、話すこと。』。発売直後に大重版がかかり話題だ。「自分のことはしゃべらない。相手のことも聞き出さない。」既存の会話術の真逆を行くコンセプトで語られる本書のなかに、「人は会話すると必ず傷つく」という項目がある。「会話の本」でありながら「必ず傷つく」とは、いかに。元電通のコピーライターでもある田中泰延氏と担当編集者の今野良介氏に、「話すとは何か?」「言葉にするとは、どういうことか?」その真髄についてじっくりと話を聞いた。本連載最終回。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)
人と話すと、だいたい傷つく。
──『会って、話すこと。』は会話について書かれた本でありながら「会話をすると必ず傷つく」という項目があります。そこが非常に気になったのですが、これはどういう意味でしょうか。
田中:会話ってリスクそのものですよね。誰かと会って「あのさ」と言うだけでも、忙しい相手の時間を奪う可能性、「今は話しかけないで」と言われて自分が傷つく可能性、自分が侮辱される可能性などがあるし、それ以前に無視される可能性すらある。誰かに言葉を発するというアクションを起こした時点で、もう互いにとってリスクだらけなんですよ。だいたい傷つきます。
「傷つきますよねー! わたしも何度失敗したことか……わたしが社会人1年目の時なんてもう、」
(傷ついた帰りたい)
田中:僕だっていつもアホなこと言って、9割はスベるから傷つくし、賢いことを言おうと思っても「その程度のことはたいして賢くないよ」と言われて傷つきます。「しゃべると必ず傷つく」と思っておいて間違いないですよ。それを考えずにしゃべり出すから失敗する。黙っていればいいのに、黙っていられなくて、失敗して、傷つくんです。
『会って、話すこと。』にも書いていますが、「わたしのこと好き?」と聞いて、自分が傷つかない答えは「はい、好きです」だけです。しかも、それを返してくれるのは地球上の70億人のうち一人いるかいないかでしょう。幸運にもそう言ってくれた人でも、最終的には裁判で争うことだって数えきれない例がある。会話をするということは、必ず傷つくことを知った上で踏み出すものなのだろうと思います。
──多くの人が、その前提をわかっていないと。
田中:そうですね。「言葉を発すれば何か利益を得られるかもしれない」と思って不用意にしゃべりすぎると、だいたい嫌な目に遭いますよ。
──それは、どんな場面でもそうですか? 日常会話だけじゃなく?
田中:もちろんです。たとえば仕事に関する会話って、社内でも社外でも、ほぼ「お願いごと」ですよね。