“代行”は、まずはじっくりと話を聞くことから始まる
2020年の初頭から新型コロナウイルス感染症の拡大が続き、公的データによれば、転職者の数は減っている*2 。もちろん、一概に、転職者=退職者とは言えないが、“コロナ”は退職代行にも影響を与えているようだ。
*2 総務省「労働力調査」より
竹内 リモートワークによって、“嫌な上司の顔を見る機会”が減った人もいるでしょう。そうしたことが「会社を辞めたい」気持ちに変化をもたらしたのか、コロナ禍では退職に関する相談件数が減りました。「リモートワークだけど、いますぐに退職したい」という方からの依頼はほとんどないですね。しかし、昨年(2021年)秋に緊急事態宣言が解除されときは、相談がまた増えました。通勤して職場に行ったら「やっぱり嫌になった」と。ただ、「何が何でも辞めたい!」というよりは、「どうしようか、悩んでいます」という声のほうが多くなっています。コロナ禍での再就職は容易ではないので、「いまは我慢する」という姿勢のようです。
弁護士である竹内さんによる退職代行は、相談者の悩みや不安に、耳をじっくり傾けることから始まる。メールや電話一本で、「退職代行をお願いします」「承りました」というやりとりではない。
竹内 「絶対に辞める!」という決意で相談に来られても、私と話しているうちに、「もうちょっと頑張ってみようかな……」と翻意される方が半数くらいいらっしゃいます。「いま辞めなくても、あなたが本当に辞めたいと思ったときは、私がしっかり代理人になります。いつでも辞められるのだから、急ぐことはないと思います」と申し上げると、「時間をあけてみます」と考え直されることがあります。無理に引き留めているわけではありませんが、次の勤め先が決まっていない場合、相談に来られた方を、私から企業への通知ひとつで無職にさせてしまうのは決して軽い話ではありませんから……退職代行の依頼でいつでも辞められることが分かり、気持ちを楽にされる方が多いのはたしかです。
就職先(転職先)がすでに決まっている相談者とそうではない相談者――当然、退職意思に至る理由や退職希望の時期はそれぞれ異なる。会社との“つき合い方・別れ方”も千差万別だ。
竹内 次の就職先が決まるまでは、在籍中の会社に辞職の意思を伏せて転職活動をするのが一般的ですよね。そして、新しい仕事が決まり、「いまの会社はすぐに辞められます!」と転職先の人事担当者に伝えてしまい、慌てて退職代行に頼る方も少なくありません。現在の勤め先がブラック企業でなくても、辞めることをついつい言い出せなくなっての依頼です。また、自分自身で人事担当者に退職を告げることができるものの、「引き留めにあいそうで面倒くさいから……」という理由で私のところにやってくる方もいます。
次の職場が決まっていないのに辞職を希望する相談者の場合は、状況をヒアリングしてみると、会社側の問題が浮き彫りになることが多いです。ただ、会社側にも言い分があり、「退職代行を使っていきなり辞めてしまう前に、本人から話してもらえていれば、何らかの解決方法を考えたのに……」と残念がる人事の方もいらっしゃいます。もちろん、ブラック企業と言われてもしかたないような、「辞めたくなって当然」と誰もが思う会社もあります。出社を拒む従業員の自宅に押し掛けるとか、電話で弁護士に怒鳴りつけるとか。弁護士にさえそういう態度なら、退職意思を口にした従業員にはいったいどんな対応をするのだろう?と懸念します。