退職の通知が弁護士からか?退職代行業者からか?

「退職代行」が世の中に知れわたり、利用者が増えていることで、企業側もその対応に慣れてきているという。代理人である弁護士や退職代行業者(非弁業者)からの退職通知は、それが従業員当人の確かな意思によるものなら、企業側は退職を止めることはできず、弁護士との交渉*3 や退職のための手続きを進めていくしかない。

*3 弁護士の資格を持たない退職代行業者(非弁業者)は、退職条件の交渉といった非弁行為(弁護士ではない者が報酬を得る目的で法律事務を扱うこと)ができない。

竹内 従業員の退職意思を通知したときの会社の反応として、「代理(退職代行)って何?」「本人じゃないのにけしからん!」といった声はすっかりなくなりました。以前は、非弁業者からの通知を受けた人事担当の方から「どうしたらいいのでしょう?」といった連絡が私に入ることもありましたが、最近は、弁護士である私からの通知にも、「(退職のための)事務処理が済んでからの返事でいい」という姿勢で、しばらくは無回答の場合があります。「どうなっていますか?」と電話すると、「いま、手続きをしているところです」と。特に問題がない場合は、退職通知とともに手続きを始めるフローが社内にあるように感じることがあります。ただ、企業側のそうしたフローが、おそらくは、企業との交渉ができない非弁業者を想定したものなので、交渉権のある弁護士に対しては然るべき連絡をいただきたいというのが私の本音です。代理人である弁護士を通さずに、勝手にクライアント(退職する従業員)に書類を送り、「もう終わっています」と言われることもあります。弁護士からの通知なのか、非弁業者からの通知なのかを、会社側の担当の方には見分けていただきたいですね。

 退職希望者の親族や知人友人を含め、弁護士資格を持たない個人や民間企業が退職代行する場合、従業員の意思を企業に伝えることはできるが、残業代や有給休暇消化などの交渉を行うことはできない。そのためもあってか、代行者(非弁退職代行業者)と退職希望者の連携がスムーズにいかないこともあるようだ*4

*4 退職代行サービスを行う非弁退職代行業者と退職希望者のトラブルを防ぐ目的などから、2019年(令和元年)に、一般社団法人日本退職代行協会(日本退職代行サービス協会)が設立されている。

竹内 「非弁業者からの連絡」という理由で会社側の動きが悪いのかどうかは分かりませんが、「話がうまく進んでいないようです」という相談が、弁護士の私のもとにくることがあります。どの段階で「うまく進んでいない」のかを本人も分からず、離職票や社会保険の資格喪失証明書が手元に届かずに困っていたり……。退職代行を依頼したくらいなので、会社への自分からの打診は避けたいでしょうが、業者との連携ができない状態なのであれば、自分自身で会社に連絡して、「書類はどうなっていますか?」と直接尋ねるのも解決策のひとつでしょう。ただし、弁護士が代理人になっている場合は、直接に会社に連絡することは控えてください。非弁業者がどういう方法で退職の意思を会社に伝えているかも重要です。退職通知の書面を内容証明付郵便で送っているのであれば、その原本控えとともにハローワークなどの関係窓口で相談するのも手です。また、次の勤め先がすでに決まっている場合は、その転職先の人事部に事情を伝えてみてはいかがでしょう。退職代行が普及する以前からブラック企業は存在しているので、対応策を持つ会社も珍しくありません。もちろん、困ったことになった時から弁護士に依頼して交渉を行ってもらう、ということも選択肢にはなります。