中小企業の管理職が退職代行を希望するケースも
終身雇用・年功序列という日本型雇用が減り、キャリアアップを理由に会社を辞めることが、これからの社会ではより顕著になっていくだろう。竹内さんの予見どおり、時代が変われば、代理人や代行業者に頼らずに「退職届」を出す人も増えていくかもしれない。一方で、退職代行は、ブラック企業に勤め、辞めるに辞められない就労者の救済措置としての役割も大きい。ブラック企業が存続する限り、退職代行はなくならないように思うが……。
竹内 ブラック企業に勤める方の退職代行はこれからも減らないでしょう。ブラックがホワイトになる条件のひとつは、景気が良くなって、人手不足が解消することです。働き手が増えて、ひとつの仕事を1人ではなく2人でやれるようになれば、ブラックな労働環境ではなくなる会社もあるはず。でも、今後の日本の労働市場において、人手不足の解消は困難でしょう。経営者がブラックになりたくないと思っていても、ならざるを得ない状況が続き、人が辞めていきます。また、バブル期にモーレツに働いた方が現役管理職として若手従業員を自分の価値観だけで働かせるのもブラックな職場の一因になり得ます。
また、退職代行の依頼を望む者は、ブラック企業の従業員、社会に出てまもない20代や転職希望者ばかりではないと、竹内さんは解説する。
竹内 最近は、仕事の量やプレッシャーで潰れそうな管理職の方も多く、そうした方々の退職代行の依頼も増えています。一般職の従業員よりも管理職のほうが辞める意思を会社に伝えづらいのかもしれません。自分が辞めたら仕事が止まり、組織が回らなくなり、会社に迷惑をかけてしまう――そんな不安を持つ、中小企業の管理職の方が相談者として目立つようになりました。「働き方改革」で部下を定時に上がらせるために、管理職が仕事を過剰に抱え込んでしまうケースもあります。「自分の退職によって誰かの仕事が増えてしまうことを考えると、辞めることを自分からは言い出せない」と。
誰か一人が辞めたときに回らなくなる組織はとても危ういものだと私は思います。「コロナになりました。熱が出ました」となったら、その従業員は仕事をストップせざるを得ません。「この時代、企業側の責任で人員のバックアップ体制を持つことは当然です」――私は相談にいらした管理職の方に、そう申し上げます。「あなたが、辞めたあとの責任を感じる必要はありません」と。コロナによる労働環境の変化で、欠員についての皆さんの理解は進みつつあります。でも、コロナだから……ではなく、平時でも人員のバックアップ体制は必須です。「自分がいなくなったら、組織が回らない」というのは、管理職の方が会社に退職意思を伝えられないことの理由にはなりません。
「自分の働く環境に疑問を持ったとき、これ以上頑張ることが辛いと感じたとき、同僚や家族に相談できない話を聞かせてください」――竹内さんはホームページでそうメッセージしている。あらゆる相談者のさまざまな「駆け込み訴え」を日々受け入れている竹内さんに、「退職代行」という仕事に対する思いを改めて聞いた。
竹内 私のクライアントに、退職代行の依頼をするリピーターの方もいらっしゃいますが、正直なところ、リピーターにはなってほしくないですね。焦って会社を辞めないように、しっかりとお話を聞き、「退職代行」はあくまでも選択肢のひとつに過ぎないことを伝えていきます。弁護士の私は、退職代行の仕事がなかったら自分の仕事がなくなってしまうわけではありませんので、ゆとりを持って、「本当にいますぐに辞めなければいけませんか?」「次の仕事が決まっていなくて、生活は大丈夫ですか?」と、少しお節介と思われるくらいに相談者に接していきたいです。そして、社会全体の価値観の変化とともに、多くの方にとって働きやすい職場が増えていってほしいと思います。