数値目標を掲げることは男性の「逆差別」につながるのか

ジェンダーギャップを乗り越えるために今すべきこととは――資生堂と日本IBMが取り組むD&I岡島悦子(おかじま・えつこ)
株式会社プロノバ 代表取締役社長/株式会社ユーグレナ 取締役CHRO
経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。年間200名超の経営者のリーダーシップ開発を行う。三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー、グロービス・グループを経て、2007年プロノバ設立。丸井グループ、セプテーニ・ホールディングス、マネーフォワード、ランサーズ、ヤプリにて社外取締役。2020年12月より、ユーグレナの取締役CHRO(非常勤)に就任。世界経済フォーラムから「Young Global Leaders 2007」に選出。著書に『40歳が社長になる日』(幻冬舎)他。

浜田:魚谷さんは「思い切って数値目標を出した」とおっしゃいました。しかし、数値目標には賛否両論あり、「能力のない人を昇進させるのか」「男性への逆差別だ」などという意見もあります。このような意見に対して、魚谷さんはどうお考えでしょうか。

魚谷:女性の場合、まず現場で「ボーイズ・クラブ」ができていて、輪の中に入れないという壁があります。加えて、結婚や出産などのライフイベントで、仕事を続けられるかというターニングポイントがやってくる。さらに、出産・育児休暇を経て復職したあとで、リーダーになってほしいと言われるタイミングがやってきます。この3つの壁があるということを誰もが認識し、変革しなければなりません。

 変革するためには、まだまだ力技が必要です。組織の仕組みや男性の意識などを変えるためには、まず何らかの数値目標を提示し、それを達成しなければならないと考えています。たとえば資生堂では、2030年までに管理職比率を男女で50:50にしようとしています。目標ではなく当たり前のことにしよう、と。そこに対してさまざまなアクションを起こしていかなければ、何も変わりません。そのためにはトップダウン的にビジョンを示す必要があります。そのためにも、数値目標は非常に重要です。

浜田:IBMにもそのような数値目標はあるのでしょうか?

福地:国によって数値は異なりますが、目標自体は掲げています。数値目標自体がゴールだとは思いませんが、私も一定量に達するまでは意識的に目標を設定すべきだと思います。優秀な人材を経営判断の場にまで引き上げていくという意味で、まずは女性をその場に連れてくることが必要です。

 日本IBMでは今、女性管理職比率が約17%。役員の割合は20%弱です。役員のほうが比率が高いのですが、それでもまだ20%です。まずはここを2025年までに25%にすることが、今の目標です。

浜田:IBMでは、役員に女性を増やすことがグローバルでのコンセンサスになっているのですね。

福地:海外のほうがはるかに進んでいまして、キーポジションはむしろ女性のほうが多いと思います。

浜田:さまざまな企業を取材していると、経営トップや経営層はやる気があって女性側のマインドセットも変わりつつあるものの、上司層や同世代の男性がハードルになっているというケースを見かけますし、自分たちの席が奪われてしまうと感じて抵抗勢力になりやすい、とも聞きます。そのような男性は、どう巻き込めばいいのでしょうか?

岡島方法は2つあると考えています。1つは、トップの本気を見せること。トップが本気であれば、当然、女性の登用が組織目標にも反映されるので、男性マネージャー層の方々も目標達成しようとするはずです。もう1つは、イノベーションを起こして非連続な成長を実現し、会社を持続可能な状態にするためには「異能」を受け入れなければならないと理解してもらうこと。ただ、「異能」の必要性は誰もが理解できるのですが、いざ具体的に「あなたの部署で女性を管理職に登用してください」となると言葉を濁されてしまいます。その課題に対しては、女性自身が多くの武器を身につけることも大事だと感じました。

 先ほど魚谷さんがおっしゃっていた3つの壁のことを、私はよく「自動ドア」に例えています。男性には自動でドアが開かれていくので、ドアがあることすら気がつかない。しかし女性の前ではドアが自動で開かないので、いちいちそこで立ち止まってしまうわけです。私自身も、かつては企業の中の数少ない女性総合職として働いてきたので、目の前で自動ドアが開かない経験をたくさんしてきました。そのドアを取り払っていくエクイティ(公平性)が重要なのだと感じています。そのためにはまず、男性が自身のアンコンシャスバイアスと同時に、自分たちの持つ特権に気づかなければなりません。

魚谷:今後、ますます多様性が必須な世の中になっていきますが、多様な考え方をぶつけ合える場が必要だとも思います。数値目標を達成するだけではダメで、全員が意見を言えたり人に任せたりできる企業文化が大事なのです。

 今の資生堂の企業文化を一言で表すと、「トラストアンドエンパワーメント」。上司と部下もそうですし、社員同士も、経営層と社員も、国内と海外も、人と人が信頼し合うことが大切です。特に日本企業のグローバルな発展を考えれば、日本から海外拠点に駐在員を派遣する中央集権型ではなく、各国の優秀な人材が加わっていくスタイルでなければなりません。そのようなカルチャーがあって初めて女性が活躍できると思うのです。