でもこのシーンですが、バスケットをやっている人ならわかるかと思います。実際には9秒も残しちゃダメなんですね。相手チームに攻撃の機会を与えてしまうので。本来なら、時間を残さないようにシュートを決めて試合を終わらせるのです。このシーンについて井上先生に聞くと、「それが人間であり、それが高校生」とおっしゃっていました。

 多くの魅力的な登場人物がいる同作品で、最も自立しながら今と向き合い、非認知脳的に安定しているのが仙道彰だと思います。揺らがず、囚われず、それでいてご機嫌なアスリートです。自然体でバスケットと向き合っていますよね。最高のフローアスリートだと確信しています。

どこが最高のチームだったのか
「今」と向き合う湘北高校バスケ部

『スラムダンク』湘北高校バスケ部に学ぶ、心が揺れない最強チームの作り方

 最後に、湘北はご存知の通りのチームで、初めてのインターハイにビビりながら挑んでいくのですが、桜木が「栄光時代は今」と話したとおり、「今を生きる力」を全員で掴み取っていく姿が好きです。あきらめの悪い男・三井寿も過去を清算し、今に生きているからこそ諦めません。

 最終巻の31巻では、言葉なしに物語が進んでいきますよね。そこにも「今」を感じて感動させられます。1日24時間あって、8万6400秒も「新しい今」がやってくる。選手全員が「今」と向き合えた湘北もまた、エクセレントチームではないでしょうか。

 山王のタイムアウト中、まだ負けているにも関わらず、キャプテンの赤木剛憲が「このチームは最高だ!」とつぶやきます。個人の自立と全体の共有に基づく信頼を、心の底から感じたからだと思います。

辻 秀一(つじ・しゅういち)/1961年東京生まれ。北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。人の病気を治すことよりも「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、すなわち“人生の質=クオリティーオブライフ(QOL)”のサポートを志す。その後、スポーツにそのヒントがあると考え、慶大スポーツ医学研究センターを経て、人と社会のQOL向上を目指し株式会社エミネクロスを設立。 応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスを最適・最大化する、自然体な心の状態「Flow」を生みだすための独自理論「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。スポーツ・芸術・ビジネス・教育の分野で多方面から支持を得ている。活動の場は多くの企業へ広がり、講演活動や産業医、Chief Health Officer、社外取締役など様々な視点から、企業の健康経営のサポートやフローカンパニー創りにも取り組む。さらに、スポーツの枠を超え、コンサルタントとしても幅広く活動。行政・大学・地域・企業・プロチームなどと連携し、スポーツの文化的価値「元気・感動・仲間・成長」の創出を目指す。子どもと社会のご機嫌を目指す一般社団法人Di-Sports研究所代表理事でもある。
【著書紹介】
37万部突破の『スラムダンク勝利学(集英社インターナショナル)』をはじめ、『フロー・カンパニー(ビジネス社)』『自分を「ごきげん」にする方法(サンマーク出版)』『禅脳思考(フォレスト出版)』『Play Life, Play Sports~ スポーツが教えてくれる人生という試合の歩み方~(内外出版)』『(2/10発売予定)自己肯定感ハラスメント(フォレスト出版)』など著書多数。