真剣勝負を“楽しむ”ことは本当にNG?学生スポーツが「笑顔作戦」で甦る理由青学大、帝京大、東洋大などスポーツが元気な大学は、どんなメソッドを持っているのか。辻秀一氏が語る

箱根駅伝を2年ぶりに制した青山学院大学。原晋監督が率いる同大学では、オリジナルのメソッドを用いて、昨今、多くのタイトルを勝ち得ている。今回の2区を走った近藤幸太郎に対して、原監督は「笑って戸塚の坂を登れ」とレース中に指示を出したという。笑うことでテンションが上がる物質セロトニンが(脳内に)出るからだ。「真剣勝負の場で笑うことは不謹慎」――。一昔前ではこういった考え方が一般的だった。しかしいま、既存の理論とは異なる方法で結果を出す指導者が増えている。スポーツドクターとして多くのスポーツに関わる辻秀一氏もまた、アスリートは「ご機嫌」であることが良いというオリジナルメソッドをも持つ。第1回第2回に続き、ビジネスの場にも活かしたい辻氏のメソッドを聞いた。(取材・文/編集者・メディアプロデューサー 上沼祐樹)

競技を楽しむためのライフスキル
「非認知脳」「ご機嫌」の重要性

 スポーツでも仕事でも、「何をどのようにするか」が大切です。「何を」の部分には、サッカーやバスケットなどの行動内容が入ります。仕事ですと「営業」「事務業務」ですね。

「どのように」の部分は、気持ちの持ちよう、すなわち心の状態で、これが質を決めています。たとえば、「楽しんでやる」と「我慢してやる」では、全くパフォーマンスが変わりますよね。この「どのように」の部分をセルフマネジメントする非認知脳力を「ライフスキル」と呼びます。「ライフのスキル」と言えるぐらい、生きていく上で大切なことです。心という不安定なものを安定させる「土台の土台」とも言える機能のことになります。

 日本の会社や部活動では、これまで上意下達で物事を進めるケースが一般的でした。しかし、これだけでは行き詰まってくるようになりました。 「非認知脳」「ご機嫌」の重要性はこれまでに語った通りですが、スポーツでも仕事でもそのための「ライフスキル」を意識すべきです。

 サッカーのメッシは、幼少期に蹴り飛ばされてあのような選手になったのか。バスケットのマイケルジョーダンは、殴られ続けてあのような選手になったのか。答えは違います。彼らはきっと幼少期から、競技を楽しむための「ライフスキル」を学んできた。だからこそ自立して考え、行動をすることができるのです。こういった心理学の重要性に気付いている指導者がいたのでしょう。昨今、星一徹のような指導者は少数派になり、ライフスキルを育んで強化しているコーチも増えているように見えますね。