多様で自由な学びが生み出されるのはなぜか?

「あべのBDL」のパンフレットには《偶発的な出会いを仕掛ける「スパイラル構造」。》というキャッチコピーが書かれている。学生同士、学生と教職員の“偶発的な出会い”のために、階段と階段をつなぐ「踊り場」もゆったりしていて、すれ違った者同士が立ち話を始めても、階段を上り下りする者を決して妨げることがない。

 教職員の研究室がすべてガラス張りになっていることも特筆に値する。これは、“ビジネスデザインをともに考える間柄”である学生と教職員の深い交流(コミュニケーション)を促すもので、キャンパスに行き交う全員を対象にした「見える化」が「学びの共有」を生んでいく。

 教室は「レクチャー&ワークショップルーム」という名称だ。そして、主な公共スペースは「フリーワーキングスペース」になっていて、グループワークやプレゼンテーションを自由に行える。配置された椅子やテーブルはすべて可動式という徹底ぶりで、ワークの参加人数に適した空間を、どこでも、誰でもすぐに準備することができるのだ。また、思考のアウトプットや突然のディスカッションのために、壁やパーティションの多くがホワイトボード仕様になっていることも見逃せない。

「あべのBDLは通常19時、希望者は21時まで利用することができます。遅い時間まで夢中になって、課題に対する提案を考えている学生たちを見て、よく頑張っているなぁと思います。また、高校生の見学の際に、たまたま近くにいた在学生に(私が声をかけて)話をしてもらう機会がありますが、学部の目的や、自分がいま学んでいる内容、そして、これから学ぶ内容をしっかり理解しています」(遠藤さん)

 学びの手段を追求し、細かに考え抜かれたキャンパスは、たとえば、昭和世代のビジネスパーソンなら、自分が卒業した学校のそれとは別世界に感じるだろう。

 取材で印象に残った特長をもうひとつ紹介したい。それは、各フロアに「コンシェルジュ」がいること。百貨店やショッピングセンターの総合案内コーナーさながら、学生のさまざまな相談に応じる職員が定位置でキャンパスを見守り、サポートしている。

“場”というハード面に限らず、“人”によるソフト面の配慮も行き渡っているようだ。

「コロナ禍での最初の緊急事態宣言の際には、職員が学生全員に電話連絡をしました。自宅のネットワーク環境が安定しない学生のフォローや、一人暮らしの学生のケアのためです。ただ、私たちが“見守り”以上のサポートをする場面はないに等しかったです。それは、授業でグループワークが多く、学生同士のネットワークが強いことが影響しています。また、単につながっているだけではなく、グループワークの基本姿勢として、目標共有・相互支援・率先垂範の重要性や具体的な手法を学ぶ『最新のリーダーシップ教育』を取り入れていることも非常に大きいと感じます」(遠藤さん)