図表2は、コンサルティング会社のウイリス・タワーズワトソンがフォーブス500社のCFO(最高財務責任者)に調査を行い、シナジー実現を阻害する要因について分析したものです。悪影響度の数値を見てもわかるように、「相容れない企業文化」「相手企業に対する管理能力の欠如」「変革実行力の欠如」「経営スタイル・自尊心の衝突」など、M&A後の人と組織に関わる問題がシナジー創出を妨げていることがわかります(*2)。
もうおわかりでしょう。このランキング上位に挙がっている要因は多くが、M&A後の統合(PMI:Post Merger Integration)プロセスにおいて浮上する人と組織に関わる問題です。慎重にデューデリジェンスを行い、交渉を重ね、ようやく契約に至ったM&Aであっても、人と組織に関わる問題がシナジー創出の妨げとなり、あっけなく「もったいないM&A」に堕してしまうのです。
それにもかかわらず、「もったいないM&A」への組織的な対処がこれまで十分に行われてきたかというと、そうではありません。M&Aの検討段階では、人と組織に関して取得できる情報が限られていることに加え、評価が難しいこともあり、重視されているとはいえないのが実情です。
また、買収までのプロセスでは、M&A後に行われるPMIプロセスについての検討が少なくなりがちです。M&Aが成立するまでは、経営者や経営企画などの限られたメンバーが秘密裏に話を進め、現場担当者が関わるのはM&Aが開示されてからというケースが多いためです。また、買収の検討や手続きを行う担当者と、PMIを行う担当者は異なるケースが一般的です。その結果、PMIに関する検討は「後回し」にされ、「後のことは、くっついたもの同士、現場で考えてください」になりがちなのです。これは、M&Aにまつわる「構造的な問題」です。人と組織に関わる厄介な諸問題は、「構造的」に生み出されているのです。
齊藤光弘 (さいとう みつひろ)
合同会社あまね舎/OWL:Organization Whole-beings Laboratory代表。組織開発カタリスト。企業における組織づくりや人材育成の領域で、現場支援と研究を融合させ、メンバーが持つ想いと強みを引き出すためのサポートに取り組む。組織開発や人材開発、コーチングといった手法を有機的に組み合わせながら、組織全体の変容と個の変容を結び付け、支援の実効性を高めている。M&Aのプロセスをサポートするコンサルティングファームのコンサルタント、事業承継ファンドのマネージャーを経て、東京大学大学院にて中原淳氏に師事し、組織開発・人材開発の理論と現場への応用手法を学ぶ。2020年3月まで國學院大學経済学部特任助教を務めるなど、大学でのリーダーシップ教育、アクティブラーニング型教育の企画・実施にも関わる。著書に『M&A後の組織・職場づくり入門』(ダイヤモンド社)、『人材開発研究大全』(東京大学出版会)がある。