4. 役割の対立
 M&Aにより、業務オペレーションや組織体制、組織文化に変化が生まれてくると、これまで担っていた職場内での各社員の役割が、曖昧になる可能性があります。その場合、買った側・買われた側の、同じような職務を持つ社員間で対立が起こります。

5. 職務特性の変容
 M&A後、業務オペレーションや求められる成果指標、職場環境の変化などによる職務特性の変容が、社員の態度や行動にネガティブな影響を与えます。例えば、顧客との関係性を重視している組織では、顧客のニーズにきめ細やかに応え、顧客満足度を高め、リピートを得ることを重視するかもしれません。一方、M&A後の組織では、新規の営業開拓を重視し、一件でも多く見込み客にアプローチし、営業件数を積み上げることを重視しているとします。その場合、M&Aの以前と以後で、求められる行動が大きく異なることから、買われた側の社員は混乱し、モチベーションが低下することも考えられます。

6.不公平の発生
 M&Aに際して、会社や経営層が社員に対して不誠実な対応を取ってしまうと、社員の態度・行動にネガティブな影響を与えます。例えば、不誠実な基準・方法でリストラを実施するなどです。

 また、M&Aの影響で、賃金や福利厚生などの待遇がそれまでの条件よりも低くなってしまうと、不平・不満の気持ちが生まれ、不公平感を持たれてしまいます。経営状況が良くない場合に実施されるM&Aでは、社員にとって不利益な状況が起こることを避けられないこともあります。その場合でも、マネジメントは、できる限り明確な理由や基準を共有しながら、誠実さを持って、社員の理解を得る努力をしていく必要があります。

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 実際には、すべてのM&Aで1~6の問題が発生する、というわけではありません。ただ、どれほど恵まれた条件が揃ったM&Aでも、M&Aが組織・職場や人に「変化」を強いるものである以上、なんらかの葛藤をもたらす可能性があります。そうしたリスクを理解し、常に頭の片隅に置いておけば、実際に問題が起きたときに気づきやすくなります。

●本連載の第2回は3月15日(火)公開予定です。