ドゥーロフ氏はフェイスブックにインスパイアされてVKの開発を始めたが、クリミア危機が発生した2014年4月にVKの最高経営責任者を解任されている。

 解任の1週間前、ドゥーロフ氏はロシアの治安機関から反プーチンデモに参加しているウクライナ人ユーザーの個人データを提出するように求められたが、これを拒否。さらにロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の個人ページを削除するようにも求められたが、こちらも断固として拒否していた。

 バカルチュク氏はECサイトの代表ということもあり、ドゥーロフ氏のように治安機関から何らかの要請を受けたという話は無い。大学卒業後に英語教師として働いていた彼女は2004年、28歳の時に産休で多くの時間を自宅のアパートで過ごしていた。その際にネットでほしいものが購入できれば便利だと考え、700ドル相当の貯金を切り崩して、ワイルドベリーズを立ち上げた。IT企業でエンジニアとして働いていた夫の助けもあり、ワイルドベリーは順調に業績を上げ、2017年にロシア最大のECサイトとなった。

 プーチン政権と親密な関係にある実業家がより多くの利益を手にしてきたロシアの社会構造について、アメリカのサウスカロライナ大学で准教授として経済を専門に教鞭をとるスタニスラフ・マルクス氏にオリガルヒが社会に与える影響について聞いた。

 マルクス氏は幼少期をロシアとウクライナで過ごし、ドイツに移住。これまでに、ロシア経済やオリガルヒに関する論文や著作を発表している。マルクス氏はオルガリヒが大きな影響力を持つロシア経済に、次のように警鐘を鳴らす。

「(米アマゾン・ドット・コムの創業者である)ジェフ・ベゾス氏や(米テスラ最高経営責任者の)イーロン・マスク氏のように、一般人とは比較できないくらいの資産を持つ人はたくさんいますし、アメリカでは経済格差も大きな問題となっています。ただし、ロシアと大きく違うのは、ベゾス氏やマスク氏といった実業家はゼロからのスタートで、世界的な企業を作り上げたということです。大統領やその側近らによって、成功を確約された状態でビジネスをしてきたわけではないのです。これがロシアとの大きな違いです。ロシアではベゾス氏やマスク氏のような実業家が誕生するのは、構造的に非常に難しいのです」

 オリガルヒはロシアだけではなく、ウクライナにも存在するが、彼らに対する世論はそれぞれの国で異なっていたとマルクス氏は語る。