スケートの小平奈緒選手が見せる「スポーツマンシップ」は、なぜ賞賛されるのかスポーツマンシップの在り方について語る、日本スポーツマンシップ協会代表理事会長の中村聡宏氏

2022年の冬季五輪は、不可解な判定や採点が目立つ大会とはなったが、多くの感動のシーンが刻まれた。スポーツマンシップという言葉があるように、選手は対戦相手や審判、ルール、観客、競技そのものに対してリスペクトを持ちながら競技に向き合う。そんな姿から、時に忘れられない場面に出会うことができるのだ。スピードスケート女子500mで、前回金メダルの小平奈緒は17位となった。しかし、レース後には共に走った銅メダルのゴリコワ選手と手をつなぎ、互いを称え合ったシーンが印象的だった。

 小平といえば、平昌五輪では五輪新記録を樹立。沸き上がる会場を静めるため、口元に人差し指を当てたのは小平本人だった。五輪連覇中の李相花(イ・サンファ)ら直後に出走する次組のためだ。小平はそのまま優勝を決め、地元で敗れたイに寄り添い言葉をかけ、世界中から称賛された。そんなスポーツマンシップの在り方とはどのようなものか。日本スポーツマンシップ協会代表理事会長であり、千葉商科大学サービス創造学部准教授の中村聡宏氏に話を聞いた。(取材・文・撮影/編集者・メディアプロデューサー 上沼祐樹)

言葉の定義がない「スポーツマンシップ」
トップアスリートに説得力がある理由は?

「スポーツマンシップ」という言葉の定義ですが、実は曖昧なんです。全世界共通でこれっという言葉はないんですよ。それは裏を返すと、スポーツに携わるすべての人が持つべき、そしてスポーツを通して身につけるべき心構えとも言えます。

 心構えですが、優秀なアスリートほど、「なぜ自分はスポーツをやっているのか」「スポーツを介して自分はどうなりたいか」と自問する傾向があります。構造的にスポーツを理解したり、深掘りしたりして考えます。トップアスリートの言葉に強度を感じるのも、競技力と言語化能力に高い相関性があるからだと思います。競技力を向上させるには、自分と向き合う時間が必然と長くなりますから。