誤解2:「選ばなければ仕事なんていくらでもあるはず」

「選ばなければ仕事なんていくらでもある」は本当か? 14歳からホームレス支援に取り組んできた川口加奈が解きたい「3つの誤解」川口加奈(かわぐち・かな)
1991年、大阪府生まれ。14歳でホームレス問題に出合い、ホームレス襲撃事件の解決を目指し、炊き出しやワークショップなどの活動を開始。17歳で米国ボランティア親善大使に選ばれ、ワシントンD.C.での国際会議に参加する。高校卒業後は、ホームレス問題の研究が進む大阪市立大学経済学部に進学。19歳のとき、路上から脱出したいと思ったら誰もが脱出できる「選択肢」がある社会を目指してHomedoor(ホームドア)を設立し、ホームレスの人の7割が得意とする自転車修理技術を活かしたシェアサイクルHUBchari(ハブチャリ)事業を開始。また2018年からは18部屋の個室型宿泊施設「アンドセンター」の運営を開始する。これまでに生活困窮者ら計2000名以上に就労支援や生活支援を提供している。世界経済フォーラム(通称・ダボス会議)のGlobal Shapersや日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」、フォーブス誌による日本を変える30歳未満の30人「30 UNDER 30 JAPAN」、青年版国民栄誉賞とされる日本青年会議所主催の「第31回 人間力大賞グランプリ・内閣総理大臣奨励賞」など、受賞多数。【写真:三宅愛子(kiwi)】

 14歳、中学2年生でこの問題と出合い、19歳で認定NPO法人Homedoor(ホームドア)立ち上げた。

 課題解決のために、最も大事にしているのが、現場や当事者の声だ。

 彼ら彼女らはどういう経緯でホームレス状態に陥り、本当に必要としているのはなんなのか。

 それを見極め、夜回りでの声かけから、シェルターの運営、相談の受付、仕事の提供、金銭管理のサポート、そして最終的には就職し、家を借りて路上脱出するところまで、いろんな状況に対応できるようなメニューを用意している。

 この中で最も特徴的なのは、仕事の提供だ。先ほどの「負のトライアングル」でも述べた通り、そもそも仕事をするという「選択肢」すら持っていない人がほとんどだからだ。

 しかも、ホームレスとなったおっちゃんたちのほとんどは、怠けたいだなんて思っておらず、「働きたい」と口にする。住居がないために働き口が見つけられないだけで、意欲は高い。

 だからといって、どんな仕事でもいいのだろうか。

 おっちゃんにも得意・不得意があるはずだ。

 じゃあ、おっちゃんの得意なことはなんだろう。

 Homedoorで行っている自主事業でもあるシェアサイクルサービス「HUBchari(ハブチャリ)」は、そんな私の問いにおっちゃんが答えた「わし、自転車なおす(修理する)くらいやったらできるで」のひと言から生まれた。

「シェアサイクルを始めて、そのメンテナンスをおっちゃんたちにしてもらう。そうすれば、放置自転車もなくなるのでは」と発想したのだ。いつもやっている、得意なことをしてもらったら、少しは働くことへのハードルを低くできるはず。

 現在は株式会社ドコモ・バイクシェアと提携して300ヵ所以上のポートで使用できる「HUBchari」は、放置自転車とホームレス問題という2つの社会課題を同時に解決するビジネスモデルだということで、数多くの賞もいただいている。

 しかし、私にとっては、おっちゃんたちの得意を活かす、尊厳を大切にする事業にできたことが何よりも嬉しい。