「3段階モデル」をPMIプロセスに当てはめる

 それでは、この「組織づくりの3段階モデル」をPMIに当てはめると、どうなるでしょうか。図表2をご覧ください。

ステップ1:解凍
 M&A/PMIのプロセスは、買収により2社が一緒になることで、どのようなシナジーが期待できるか、どんな体制で事業を進めていけるのかを、検討するところから始まります。その際、組織の状況を棚卸して、現時点の課題や、今後想定される潜在的な課題についても検討したり、PMIのプロセスをどう進めていくかも検討していきます。

ステップ2:変化
 M&A契約の締結後、実際に2社が一緒になり、PMIのプロセスが進んでいきます。そのプロセスのなかでは、お互いの組織文化や業務の進め方の違いなどから、たくさんの葛藤が生まれてきます。契約前に抱いていた、お互いに対するイメージ(*3)が間違っていたと気づくのもこのタイミングからです。それらの葛藤をどのように解消していくか、シナジーを創出するためにどんなアクションが必要なのか、などが検討され、アクションプランが策定・実施されていきます。

ステップ3:再凍結
 M&Aを通じて実現したいゴールやビジョンを再確認(必要によって調整)し、それらの達成のために検討されたアクションを実行・定着させていくための期間です。新しい行動が定着し、組織文化として昇華されることで、変化の動きが加速していきます。この段階では、M&AやPMIのプロセスを振り返り、そこで得た知見を明らかにし、今後のPMIのプロセスに活用したり、さらなるM&Aを実施することに備えて、組織としての学びを蓄積しておくことも重要です。

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 いかがでしょうか。「組織に対する計画的な働きかけ」という観点でPMIを捉えると、組織を統合するために行うべきことが、非常に明確になります。本連載では、PMIのプロセスに「組織づくりの3段階モデル」を適用し、検討を深めていきます。

*3 『M&A後の組織・職場づくり入門』第8章にインタビューを掲載した岡俊子氏(明治大学グローバル・ビジネス研究科専任教授)は、このイメージのズレを「イリュージョン(幻想)」と表現されています。
M&A後の組織・職場づくりの視点とは?

『M&A後の組織・職場づくり入門』編著者

中原淳 (なかはら じゅん)

立教大学経営学部教授。立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。博士(人間科学)。1998年東京大学教育学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科で学び、米マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学准教授などを経て現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発・リーダーシップ開発について研究している。著書に『M&A後の組織・職場づくり入門』『組織開発の探究』(共著、HRアワード2019書籍部門・最優秀賞受賞)『研修開発入門』(以上、ダイヤモンド社)、『職場学習論』『経営学習論』(以上、東京大学出版会)ほか多数。

ブログ:NAKAHARA-LAB.net

《連載バックナンバーはこちら!》
第1回 M&Aを失敗させる『人と組織』の問題とは?
第2回 M&Aはなぜ社員に葛藤をもたらすのか?

●本連載の第4回は3月29日(火)公開予定です。