地理とは「地球上の理(ことわり)」である。この指針で現代世界の疑問を解き明かし、6万部を突破した『経済は地理から学べ!』。著者は、代々木ゼミナールで「東大地理」を教える実力派、宮路秀作氏だ。日本地理学会企画専門委員会の委員として、大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも参加し、精力的に活動している。2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定し、地理にスポットライトが当たっている。本記事は、昨今のウクライナ情勢を受け、ロシアとウクライナの関係にスポットを当てた宮路氏の寄稿だ。

ロシアのウクライナ侵攻、原因は宗教対立!? 残酷な歴史を徹底解説!Photo: Adobe Stock

ロシアとウクライナの意外なつながり

 ロシアのウクライナ侵攻には「宗教問題も背景の1つにある」と考えることができます。まずその前提として、宗教の基本知識、「正教会」から解説していきます。

正教会とは?

「正教」とは、いわゆる「オーソドックス」と呼ばれるもので、「正しい教え」を意味します。これはギリシャ語の「オルソドクシア」に由来する言葉です。正教会は、原始キリスト教からの連綿性があると自認しています。

 原始キリスト教とは、イエスの死後、12人の弟子たち(十二使徒)がイエスの教えを広めていった頃、つまり伝道活動を始めた頃のものを指します。後に強固な共同体ができあがり、祈りなどの形式が徐々に整えられていき、さらに集会の維持・継続に必要な決まり事なども定められていきました。

 この時代の十二使徒の教えを、現代までゆがめることなく伝えており、またそれを今もなお保持していることを使徒継承といいます。十二使徒の一人であるアンドレイは、黒海北部地方で伝道を行ったとされており、ドニエプル川河畔の丘陵地帯で祝福し、十字架を設けました。

 その十字架を設けた場所こそが、現在のキエフだったと考えられています。ちなみに、十二使徒の一人であるピーターは、このアンドレイの弟にあたる人物です。

 正教会には基本的に「1ヵ国に1つの教会組織を置くこと」という原則があります。たとえば、ロシアに置かれた正教会は「ロシア正教」と呼ぶように、国名もしくは地域名を冠した組織を形成しています。しかし、正教会にはカトリックでいうところのローマ教皇庁のような世界全体を統括する組織は存在しません。

 正教会における高位聖職者を「主教」と呼び、正教会における最高位聖職者を総主教といいます。現在のコンスタンティノープル総主教庁の総主教は、1991年よりバルトロメオ1世が勤めています。ちなみに、コンスタンティノープル総主教は「全地総主教」とも称されます。

 世界全体を統括する組織は存在しないといいつつも、コンスタンティノープル総主教庁の名前を出したのは、数ある正教会の総主教庁の中で筆頭格であると、誰もが目している歴史的な背景があるからです。

 正教会信者の誰もが「コンスタンティノープル総主教庁が序列でいうとトップだよね」と解釈しているということです。