メンバー側の意識を変えていくための2つのアプローチ

 1on1の導入・定着により、マネジャーの意識は変わったといいますが、では、部下のほうはどうでしょうか。

 同社でも、積極的に導入は進むものの、「メンバーのやりたいことを引き出せているのか」と悩む上司もまだいるといいます。

 1on1のような「場」ができると、どうしても「何でも聞いてもらえる」と思われがちですが、いくら上司が積極的に関わろうとしても、部下側が受け身では成果にはつながりません。

 この課題に対しては、2つのアプローチを提案することができます。1つは、心理的な安全性を保つこと、そしてもう1つは、メンバーの内的キャリアを把握することです。

 前者について、パナソニック ソリューションテクノロジーでは、自社開発した「1on1支援システム」を活用して相談しやすい環境をつくっています。

 特に重要なのは、部下から上司に対して「1on1をやりましょう」とリクエストする仕組みがある点です。共有しているスケジュールから上司の空き時間を確認できるため、部下のタイミングで持ちかけることができ、これが心理的なハードルを下げています。

 また、実施状況、上司側の自己評価、メンバー側の満足度も可視化されているため、1on1の定着にも効果があったといいます。

 後者の内的キャリアについては、『1on1戦術』でも述べたとおり、部下の仕事に対する動機や意味づけ、価値観(=内的キャリア)を、上司と部下の双方でしっかりと握れているかにかかっています。つまり、メンバー自身が、1on1を活用して「キャリアは自分で切り拓くもの」と自覚できているか、が重要になります。

 今、1on1の導入においてリードしている企業からは、1on1の場が、実は部下にとってはチャンスであると、いかに気づいてもらうかが課題との声を聞きます。たとえば、『1on1戦術』でも紹介した対話のスキル「仕事を通して実現したい姿を聞くことで、内面にある部下の価値観を引き出す」(同書159ページ)などを用いて、部下側の視野も未来へと伸ばしていくことができます。

 磨いた「聴く力」を用いて、メンバーの「価値観」や「WILL」をしっかり掘り起こしていくことで、上司と部下、双方の意識が変わり、1on1の場をより実りあるものにすることにつながるのです。