今シーズンから55歳のレジェンド、FW三浦知良がプレーしている日本フットボールリーグ(JFL)の鈴鹿ポイントゲッターズで、前代未聞の不祥事が発覚した。2年前のリーグ戦で試合結果を操作する、いわゆる八百長が指示されていたと最上部団体の日本サッカー協会(JFA)が認定したのだ。チームの反発で未遂に終わったものの、J1から数えて“4部”に当たるJFLの舞台で何が起こっていたのか。サッカーを含めたスポーツ界への信頼を失墜させかねない、鈴鹿の愚行の背景を追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)
公式戦で「八百長」認定
当事者は口をつぐんだまま
未遂だったとはいえ、公式戦で八百長行為を画策していたとJFAから認定されても、鈴鹿の当事者は公の場で会見すら開いていない。
現時点で唯一のアクションは懲罰が科された当日ではなく、一夜明けた4月6日のクラブ公式ホームページの更新。鈴鹿を運営する「株式会社アンリミテッド」名で掲載した文書内でこんな言葉がつづられている。
「弊クラブのサポーターの皆様、スポンサーの皆様、その他関係者ご一同、スポーツ、サッカーに関わる全ての皆様に多大なるご迷惑、ご心配をお掛けしましたことを、深くお詫び申し上げます」
その上でガバナンス体制の刷新を進めると表明した鈴鹿で何があったのか。審議の末に懲罰処分を決めたJFAの規律委員会がまとめ、JFAの公式ホームページに掲載された文書によれば、一連の問題は2020年11月29日のソニー仙台とのJFL最終節前に起こった。
試合を2日後に控えた11月27日。アンリミテッドの吉田雅一代表取締役社長、支配株主の西岡保之会長、塩見大輔元執行役員、スペイン出身の女性指揮官ミラグロス・マルティネス前監督らが集められたミーティングで西岡会長がこう発言した。
「もう昇格も降格もないので、この試合は必ず勝たなければいけない試合ではない。負けてもいい試合なので若手や出場機会のなかった選手を使ってほしい。仮に0対1で負けていて、残り時間が少ない場合、日本対ポーランド戦の時のように追いつこうとせずに、そのまま負けるという選択肢を選んでほしい」
八百長首謀者が引き合いに出した
ポーランド戦は「世紀の茶番」の烙印
西岡会長が言及した「日本対ポーランド」とは、ワールドカップロシア大会のグループHの最終戦を指す。残り時間が10分を切った段階から0-1で負けている日本がボールを回し、時間稼ぎを始めた一戦だ。
グループリーグ敗退が決まっていたポーランドも追加点を狙わない。試合中から賛否両論が巻き起こり、そのまま日本が敗れた一戦は「世紀の茶番」とやゆされた。
日本は同時間帯に別会場で行われている試合で、勝ち点、得失点差、総得点で並ぶセネガルが負けている情報を得て敗戦を決断した。
両試合がこのまま終われば、セネガルを破ったコロンビアが首位通過。2位は警告や退場の数に応じるフェアプレーポイントに委ねられ、残り10分弱の時点で日本がセネガルをリードしていた。
ゴールを狙ってポーランドに追加点を奪われても、焦燥感から日本がカードをもらっても状況は暗転する。もどかしさを封印して他力本願に委ねた決断を、日本の西野朗監督はこう振り返った。