旧約聖書をつくり始めた理由
結局、エルサレムに帰ったのは、祭司階級を中心とする人々だけでした。
いわば先祖のお墓を守らなければならない人たちです。
彼らは帰郷すると、破壊されたユダヤ教の神殿を再建(第二神殿)しました。
けれど、バビロンからは誰も帰ってこないまま歳月が流れていきます。
祭司階級の人々は、だんだん不安になります。
このままでは、ユダヤ人はペルシャ帝国の中に埋没してしまい、消滅しかねないと思ったのでしょう。
彼らは自分たちのアイデンティティを確認するために、旧約聖書をつくり始めたのです。
旧約聖書はユダヤ人に説きました。
我々は今は苦しんでいて不幸であるが、もともとは神に選ばれし民である。
必ず救世主が現われて救ってくださるのだと。
宗教に選民思想が登場したのです。
救世主はヘブライ語でメシアといいます。
メシアは、ギリシャ語ではクリストス(キリスト)となります。
なお旧約聖書という名称は、キリスト教側の呼称です。
ユダヤ教ではタナハTanakhと呼ばれます。
このタナハと、タルムードTalmudと呼ばれている口伝の律法(生活規律)を信じることによって、ユダヤ教の体系がほぼ完成しました。
帰ってこないユダヤ人に、ユダヤ人の先祖から伝わる物語を伝え、民族のアイデンティティを失わないようにすることが大きな目的でした。
誇りを持て。我らは選民なのだ……と。