ある大企業の社長と、お会いしたときのこと。打ち合わせがはじまるまでに少し時間があったので、世間話をしながら待つことになりました。最近あった面白い話をしてくれる社長は、とても気さくな方という印象です。

 しばらくして打ち合わせの時間になり、さぁはじめましょうとなった途端、社長の声のボリュームが上がり、一瞬で社長モードへと変わったのです。その場の社員たちに、一気に緊張感が生まれました。一流の社長は、まるで役者のように、話す相手、話す場所、話す内容によって、声や話し方を華麗に変えることができるのです。

 では実際に、社長の伝え方を変えたことで業績が大きく変わった事例をご紹介しましょう。

障害者雇用をし、応援する企業の悩みとは?

 会社の掲げる理念やサービスは素晴らしいものなのに、それがなかなか伝わらないというジレンマを抱えている会社はたくさんあります。栃木県にある「ミンナのミカタ」もそうでした。

 ミンナのミカタは、2013年に、代表の兼子文晴社長が創業しました。障害者雇用をし、応援する企業です。

 じつは、創業者の兼子社長自身、元うつ病患者で、現在はパニック障害による精神2級の障害者手帳を持つ、障害者です。企業の営業部で営業本部長として働いていた頃に、うつ病を発症。一時は、ひどく不安定な時期もありましたが、通院治療を続け、徐々に寛解していきました。

 寛解が進んだあるとき、兼子社長はA型事業所を見学します。A型事業所とは、障害や難病のある方が雇用契約を結び、一定の支援を受けながら働ける職場です。

 そこで兼子社長が見たのは、健常者と同じように作業に取り組む従業員たちの姿でした。自分が想像していた障害者とはまったく違う光景に衝撃を受けます。しかし、その地域には、A型事業所は1箇所しかない状態でした。