入社予定の外国人たちの、出身国に住む親に対し…

 多くの外国人の就労観や慣習、生活スタイルは日本人とは異なるものだ。留学経験を経て、日本に馴染んでいるとはいえ、外国人が職場で働き始めてから「こんなはずじゃなかった……」と思い悩むこともあるのではないか。

鈴木 入社志望のある外国人の方には、面接や工場見学の段階で私が十分に話をします。たとえば、ムスリムの方には、当社の勤務中ではお祈りの時間をご遠慮いただいていること、ラマダンができないことなどをお話しします。「職場は安全第一で、万が一、あなたがラマダンで無理をして仕事中に倒れたりしたら大変なことになりますから」と説明し、ご理解いただきます。そして、当社の決まり事を知ったうえで入社の意思が変わらなければ、スズキハイテックのメンバーに加わっていただくことになります。ただ単に「ダメ!」ではなく、ダメな理由を伝えることが大切ですね。

 当然、それぞれの食文化は尊重しています。無理やりに「食べてください!」とは言いません。現在はコロナ禍で実施できませんが、忘年会だったり、歓迎会だったり……会社にはみんなが集まって飲食する機会があります。そのときに当社が提供する食べ物には出来る限りの配慮をします。

 外国人が入社し、日本人と一緒に働くにあたり、鈴木さんは、外国人の誤解や日本人の偏見を最善の手を尽くして減らしている。そして、その目線は、従業員となる当人だけではなく、それぞれの出身国に住む親たちにも向けられている。

鈴木 コロナ禍前の話ですが、バングラデシュにもインドネシアにも中国にも行きました。時間的な都合からボリビアだけは行けなかったですね。いずれはご挨拶に行こうと思っていますが……。留学生は山形にある当社を知り、自らの意思で職場を選び、私たちと一緒に働くことを決意したわけですが、お父さんお母さんは、自分の息子や娘が日本にせっかく留学したのなら、就職先は世界的に名の通った企業であることを望んでいます。「山形のスズキハイテックって何の会社? めっきって何?」と、心配なさるでしょう。情報をなかなか得られないし、この場所を見に来ることもなかなかできません。ですから、可能な限り、私のほうで各国に伺い、直接にお話をしよう、と。それで、ご両親が納得するかどうかは分かりませんが、ほんの少しでも理解してほしい。「努力ゼロ」よりは何かをしたほうがよいはずで、親心を察しながら、「どうか安心してほしい」という思いで渡航しました。

 一般的に、日本の企業・団体において、就労期間があらかじめ定められた技能実習生はもちろんのこと、さまざまな在留資格で働く外国人人材の雇用は、「終身雇用」「年功序列」といった日本型の雇用スタイルには馴染まないようにも思える。外国人人材との出会いと別れ――鈴木さんは、「従業員の離職はしかたがないこと」とも語る。

鈴木  日本人の従業員同様、外国人の方に、当社で少しでも長い期間働いていただきたいという気持ちが私にはあります。せっかく出会ったわけですから。でも、「ずっと、いてくれ!」ではなく、「いてくれたらいいな」くらいの気持ちです。親の介護のためなど、故郷の国に帰らなければいけないときが外国人従業員にはあります。よく、「(外国人が)辞めたらどうするんですか?ずっと辞めないんですか?」と聞かれますが、日本人だって辞めるときは辞めるわけだし、「人は何のために仕事をしているか?」と言えば、私は、きれいごとではなく、自分の幸せのためだと思っています。すべては一人ひとりの幸せのため。だから、辞めることがその人にとって幸せなら、それでいいんじゃないですか?一期生の中国の方は、結婚を機に日本を離れる決意で退職し、私たちは「中国で働くあなたと何かのビジネスを一緒にできたらいいね」という気持ちで別れました。技能実習生たちともよくそんな話をしています。「バングラデシュに戻って、仕事でつながれそうなときはいつでも連絡して。手伝えることは何でもするよ」と。