“デジタル化”が、「技能実習」と「特定技能」の外国人雇用を変えていく

新型コロナウイルス感染症の世界的拡大は、日本で働く外国人にとっても大きな問題となり、職をなくして国内にとどまる在留外国人も多いようだ。そうしたなか、技能実習生や特定技能で働く外国人たちはどうしているのだろう? 外国籍人材の雇用を“デジタル化”で支援するBEENOS HR Link株式会社の岡﨑陽介さん(代表取締役社長)に、コロナ禍におけるその現状と今後、さらに、監理団体や登録支援機関の事務作業がデジタル化していくことのメリットを聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「ダイバーシティが導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

「技能実習」「特定技能」を事業の中心に据えた理由

 ワールドワイドなEC事業など、幅広いビジネスで知られるBEENOS株式会社*1 ――その子会社として、BEENOS HR Link株式会社は、昨年2020年12月に設立された*2 。主な事業は、技能実習*3 や特定技能*4 で外国籍人材を雇用する企業への“デジタル支援”だ。言わば、畑違いの企業による業界への新規参入だが、コロナ禍において、それはどのような経緯だったのか。

*1 BEENOS株式会社(本社:東京都品川区)は、1999年11月設立。代表取締役 執行役員社長 兼 グループCEO 直井聖太。主な事業内容は、国内外における各種Eコマース事業。従業員数799人(2020年9月末現在)。
*2 BEENOS株式会社プレスリリース「外国人雇用をテクノロジーで支援する子会社、BEENOS HR Link(ビーノス エイチアール リンク)株式会社を設立」(2020.12.03)
*3 「外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に協力することを目的としております。平成28年11月28日に公布され、平成29年11月1日に施行された外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成28年法律第89号)に基づいて、新しい技能実習制度が実施されています」(厚生労働省「外国人技能実習制度について」より)
*4 「2019年より在留資格『特定技能』が新設されました。これは、慢性的な人手不足に悩む中小・小規模事業者が、生産性向上のために外国人材の受入れを強化するためのものです。専門的な技能と日本語能力を有し、日本で働く意欲のある外国人材の受入れと職場や地域での定着を支援します。人材の確保を図るべき14の特定産業分野のうち建設業を除く13分野において適用されます」(「厚生労働省 地域外国人材受入れ・定着情報サイト」より)

岡﨑 もともと、私はBEENOSグループ内の新規事業を立ち上げる会社におりまして、グループ全体の事業テーマである「越境」をベースに新規事業の「軸」として考えたのが「人口動態」の変化でした。(日本の)人口減少での働き手不足という課題を、一企業の事業において解決したい――そこで、「外国籍人材」に行き着いたのです。ITによる「越境」のノウハウはすでにグループ内にありますので、それを「外国籍人材」に転用したときに何かできることがあるのでは?と考えたのです。

 会社設立に先立つ2020年7月には、海外の送り出し機関、国内の監理団体*5 、登録支援機関*6 、受け入れ企業、そして、国内外にいる外国籍人材が利用できるSaaS*7 型越境HRプラットフォーム「Linkus(リンクス)*8 」のサービスを開始した。外国人在留資格の一部である「技能実習」と「特定技能」に焦点を絞った理由は――。

*5 外国人技能実習生の監理事業を行う非営利団体で、受け入れ企業が外国人実習生に適切な実習を行っているかの監査などを行う。一般監理団体と特定監理団体の2種類があり、一般監理団体は優良監理団体ともいわれ、技能実習1号~3号までの受け入れが可能。特定監理団体は技能実習1号・2号の受け入れが可能で、その期間は最大3年間となっている。
*6 特定技能制度で外国人の雇用を予定する企業からの委託を受けて、当該外国人(特定技能1号)の就労のために、支援計画の作成や実施などを行う機関。
*7 Software as a Service。クラウドで提供されるソフトウエアのこと。
*8 海外人財・送り出し機関・支援団体・受け入れ企業が個別アカウントで繋がる管理と営業の両側面を持つ業界唯一のプラットフォーム。(Linkusホームページより)

岡﨑 「外国籍人材」領域での新事業を検討し始めたのがちょうど、「特定技能」が制定された直後だったので、制度にひもづく課題があるのではないか?と思いました。そうして、識者や関係者の方々にヒアリングしながら、「技能実習」「特定技能」といった「外国籍人材」を扱う業界がアナログ(紙をベースにした業務推進)だということが分かりました。デジタルに特化した事業を行う私たちから見て、「その問題はデータベースを作ればなくなるのではないか?」「デジタルの仕組みを作るだけで変わるのではないか?」ということがあって、まずは、その問題解決となるプラットフォームを創ることにしたのです。

 事業を立ち上げる過程で行った、識者や関係者へのヒアリングにおいて、岡﨑さんにはさまざまな気づきがあったようだ。技能実習・特定技能制度で企業が外国籍人材を雇用することについて、「Linkus」の開発から運営に至るまでに読み取った課題は何だろう。

岡﨑 技能実習について言えば、「外国人(外国籍人材)は安く雇える」といったような、日本企業側の先入観が凝り固まっている気がします。外国人を雇うときに、「この仕事は外国人でいいよね、賃金が安く済むし…」という考え方が根本にあって、「この人が仕事に適しているから、ぜひ雇いたい!」という姿勢で採用しているケースはめったにないようです。宿泊業や外食産業など、特定技能制度で外国人の就労が可能になった業種*9 はフラットな視点も見受けられますが…。また、「技能実習生が労働の悪環境下に置かれている」といった報道も目立ちますが、雇用する企業さん側からすれば、「技能実習生は日本語などをもう少し自主的に学んでほしい」といった思いもあるようです。

*9 特定技能1号の業種は全14業種。「介護業」「ビルクリーニング業」「素形材産業」「産業機械製造業」「電気・電子情報関連産業」「建設業」「造船・舶用工業」「自動車整備業」「航空業」「宿泊業」「農業」「漁業」「飲食料品製造業」「外食業」。

岡﨑陽介

岡﨑陽介 (おかざき ようすけ)
BEENOS HR Link株式会社 代表取締役社長

Linkusの事業責任者として、事業構築からサービス企画・営業などを統括。 前職までは芸能事務所でプロモーション企画やメディア開発を行う。2015年、BEENOSのグループ会社に入社、タレントコラボ商品の企画や新規事業を担当。2019年に同グループ内インキュベーション事業のBeeCruiseに転籍し、Linkusを立ち上げ、2020年7月にサービス提供を開始。2020年12月にBEENOS HR Link株式会社を設立、代表取締役社長に就任。