背中で示すのではなく、繰り返し伝えていくこと
外国人の雇用における「理解と尊重と共有」、それをベースに実現しているダイバーシティ&インクルージョン――鈴木さんは、「外国人従業員たちの仕事に対するモチベーションの高さがスズキハイテックを好転させている」と解説する。
鈴木 あくまでも、私のイメージですが……当社で働く外国人の方たちは、「やりがい」を強く求めています。責任感があり、「一緒に働く仲間たちに認められたい」という欲求は、日本人の従業員よりも強い気がします。世間には、責任を与え過ぎることによって仕事が嫌になってしまう人もいますよね。しかし、日本の大学で留学経験があり、仕事の「やりがい」を求める外国人の方はそうではありません。何かを学びとりたい、責任を与えられたい、認められたいという思いが根底にあるのです。誰もが驚くくらい熱心に仕事をしますから、日本人の従業員たちはそんな彼ら彼女たちを見て素直に感動します。「すごい……自分たちも頑張らなきゃ」と。近年、当社の売り上げが伸びているのは、開発主導型になったからだけではなく、会社全体の空気がポジティブになったからでしょう。外国人従業員の存在で、みんなのマインドが変わりました。ある日本人従業員は、かつては心がすぐに折れてしまう感じだったのですが、いまは違います。リーダーの役割で外国人たちと一緒に働き、リーダーシップを発揮しています。仕事に取り組む気持ちがとても前向きになったのです。
スズキハイテックは、採用ホームページに、求職者の応募条件を「スズキハイテックに興味のある人」「スタメンで活躍したい人」と明記している。誰もが仕事のスターティングメンバーに成り得て、チームの中で活躍できるチャンスがあるのだ。そして、チャンスを好結果に変えるために大切なのが「利他の心」だと、鈴木さんは言葉を続ける。
鈴木 今年も新入社員たちに「利他の心」の大切さをもう何十回もメッセージしています。相手を思いやる心、配慮する行動は仕事をするうえでいちばん重要ですから。まずは、礼儀を身につけること。挨拶も「利他の心」に通じるので、社内で徹底しています。「利他の心」とは、「お互いを助け合う気持ち」です。日本人だけではなく、もちろん、外国人の従業員にも事あるごとに伝えています。「あなたが仕事で成功したければ、まずは人を助けなさい」と。「人を助ければ、あなたも必ず助けてもらえます」と。仕事を早く覚えたければ、挨拶をきちんとして、相手に一生懸命に話しかけること。そうすれば、相手はあなたを思って助けてくれるから――そんなことを、繰り返し言っています。
挨拶はできない人が悪いのではなく、その価値を教えないことが悪い。「外国人は礼儀がなっていない」と嘆く人もいますが、しっかり教えることが大切ですね。背中で示すのではなく、言って聞かせる。「日本人が当たり前に思っていることでも、外国人には当たり前ではないことがたくさんあるから、彼ら彼女たちがうまくできなければ、自分たちが悪いと思いなさい」と、私は日本人のみんなに話しています。たとえば、挨拶の重要性を外国人の新入社員に告げると、最初はニヤニヤしながら聞いていても、繰り返し言っているうちに本気度が伝わり、やがて、実践するようになります。