多様な人材とともに、山形から世界に向けて…

「利他の心」は、「従業員の離職」についての鈴木さんの考え方にも表れている。ともすれば、人手不足を恐れる中小企業は、「利社の心」で従業員を束縛する傾向もあるが、スズキハイテックはそうではない。

鈴木 従業員の離職を恐れるがゆえの会社側の姿勢は、かえって離職を招くのではないかと私は思っています。辞めてもいいじゃないですか。さっきも言いましたように、みんながそれぞれ幸せになればいい。A社を辞めても、B社で幸せになったら、それでいいですよね。私の場合は、「スズキハイテックに在籍していたことだけは忘れないでほしい」という考えです。会社側が離職を恐れ、過剰に何かをする必要はないと思っています。

 一方、当社は中小企業なので、代表者である私が発信し続けることも重要です。小さな会社では、トップがきちんと社内外にメッセージする必要があるでしょう。メディアなどを通じて、社内のみんなが私の思いや考えを知ることで、自社への理解も深まりますし、社外の人たちも当社に関心を持ってくれます。

 そしてもうひとつ、スズキハイテックを語るうえで見逃せないのが、「地方」という所在地だ。かつては「鈴木メッキ工場」という看板を掲げ、いまもなお、山形という土地に根ざしている“創業100年企業”であるスズキハイテック――その、地域との長く深い関わりを聞いた。

鈴木 地元での当社のイメージは、「町の中にずーっとあるめっき屋さん」だと思います。大正3年に、山形市内のこことは違う場所で創業したのですが、昭和19年に曾祖母が現在の地に移転しました。その曾祖母が2代目です。この辺りは住宅が多くなりましたが、昔は鋳物の町で、当社も地域産業の会社のひとつでした。現在の従業員には、近所で生まれ育った方もいます。

 日本で働く外国人にとって、住環境はとても大切で、地方のこの町は物価も含めて暮らしやすいはず。地域住民の方々も、外国人である彼ら彼女たちを温かく迎え入れています。コロナ禍で、公民館などにみんなが集まる機会は減っていますが、コロナ前は、敬老の日には、外国人の方たちがご老人に母国の料理をふるまったりしました。企業が地域に貢献しながら、そこで働く人たちもその土地に馴染むことが大切で、お祭りでは外国人も日本人も一緒に神輿を担ぎます。そうした経験が、外国人の暮らしやすさにもつながっていくのでしょう。

「新・ダイバーシティ経営企業100選」(2020年)のほか、中小企業庁「はばたく中小企業・小規模事業者300社(海外展開部門)」(2016年)、経済産業省「地域未来牽引企業」(2018年)にも選ばれているスズキハイテック――“地方の中小企業”として、日本人と外国人従業員のチームワークで躍進し続けているが、これから先、創業150年200年に向けて、5代目社長の鈴木さんが持つビジョンはどういったものか。

鈴木 ビジネスモデルの面では、電気自動車関連の商品が好調なので、その事業を伸ばしながら、医療分野や宇宙分野の商品開発を手がけていきます。スズキハイテックのみんなで開発製造し、山形の地から世界に発信していく姿勢をこの先もずっと続けていきたいですね。

 人材面で言えば、外国人の採用は、当人の入社希望あってのことなので、いまのところは未定です。ただ、商品の開発提案と多様性の重要さから、私たちのほうから門戸を閉ざすことはないでしょう。社内にいろいろな人がいるからこそ新しい発想が生まれるわけで、「多様性のある職場」の存続は会社の成長にとって不可欠です。たぶん、「多様性」は人を優しくします。外国人にかかわらず、シニアだったり、障がいのある人だったり……さまざまな人への配慮が優しい気持ちをつくっていくのでしょう。当社の今年の新入社員19名のうち、3名は障がいのある方です。

 これからも、私たちスズキハイテックは時代の変化に適応しながら、みんなの力でさらなる成長を目指していきます。