「社寺や仏像など歴史的に価値のあるものをメインにした『うまし うるわし 奈良』は、奈良ファン・歴史ファンのシニア層が中心でした。近年はおしゃれなカフェやレストランが増えているので、若い方向けにウェブ用の動画を作ってみたところ手応えがあったので、そのあたりを前面に打ち出す形にしました」

 昼間に定番スポットを回る奈良観光ではなく、早朝・夕夜間を含めたゆっくりとした時間を過ごすことで、過去と現在が重層的に同居する奈良を体験しようという主旨だが、これは従来のキャンペーンが取り上げてきた神社仏閣を後景に追いやろうというのではない。奈良のイメージが書き換われば、文化財の見え方も変わってくるからだ。

 新キャンペーン開始に先立ち、JR東海が開催したプレスツアー(4月24~25日)に参加して久々の奈良を体験してきた。1300年近くあり続ける大仏は(大仏からしたらほんの一瞬のことだろうが)、22年ぶりに訪れた私を待ってくれていたような、不思議な感覚があった。そうか。変わったのは奈良ではなく自分なのだ。

「奈良は1300年以上の時を超えて存在する歴史的な魅力と、今を生きる人たちの魅力が合わさった素晴らしい街です」

 本稿は旅行記事ではないので、今を生きる「新しいスポット」の紹介はキャンペーン特設サイトなどに譲ろう。知名度は低いがオリジナリティのある「大和野菜」や、氷室神社に由来する(こじつけた)「かき氷」、ひそかに盛り上がる「バー文化」など、ただキラキラしただけではない、今に息づいた魅力あるスポットがいろいろと紹介されている。

 楽しみ方のコツは簡単だ。宿泊して早朝に散策する、徒歩で街を回る、食べたことのないものを頼んでみる。そうしているだけで、大仏も鹿たちも、かつてとは違う一面を見せてくれるはずだ。