修学旅行の定番だが
宿泊客はわずか1割

 それだけ親しみのある場所なのに、大人になってから奈良を再訪する人が少ないのはなぜなのだろうか。

 少々古い数字になるが、奈良県立大学と奈良信用金庫が2014年にまとめた報告書は「平成23年度奈良市観光戦略基礎調査」を引用する形で、奈良市の来訪経験者は京都市、横浜市に次いで全国3位だと記している(全国主要都市居住者約3万人を対象に、奈良市を含む29観光地の来訪経験とイメージを聞いたもの)。

 しかし奈良市のイメージが良いと回答したのは来訪経験者の45%にとどまった。さらに来訪経験者の40%は修学旅行などの学校行事以外に来訪したことがなく、同じく来訪経験者の70%が、最後の来訪は5年以上前と回答した。

 つまり、奈良のイメージは子どもの頃の修学旅行のままで、大人になった今、あえて行きたいとは思わない所、という実態が浮かび上がってきた。読者の印象とも合致するかもしれない。

 確かに筆者の人生2度の奈良体験を振り返ってみても、脳裏に浮かぶのは東大寺と奈良公園、もっと俗な言い方をすれば大仏と鹿だけだ。そして奈良とはそんなものだと分かったつもりになっていた。だが私たちは奈良の何を知っているというのだろうか。

 実はこれにも理由がある。奈良市観光戦略課の調査によると、2019年に奈良市を訪れた修学旅行生(小・中・高)は約82万人だったが、宿泊客はおよそ1割の9万人だった。

 意外に聞こえるかもしれないが、奈良県は観光都市でありながら近年まで宿泊施設数が日本最下位だった。それは前述の通り観光者数自体が少なく、その多くは大阪を始めとする近畿圏からの日帰り客で、遠方からの旅行者も京都に泊まって奈良は立ち寄るだけというパターンが多いからだ。

 そうなれば自然と訪問地は定番スポットばかりになる。修学旅行だとバスで京都を出発し、決まったコースを連れられて回るだけ、というケースも少なくないだろう。東大寺や奈良公園の外に一切出ずに次の目的地に移動したのなら、大仏と鹿しか覚えていないのも当然だ。