1926年に米国シカゴで創立された世界有数の戦略系経営コンサルティング会社、A.T.カーニー。同社史上最年少で日本代表に就任した関灘茂氏が今回話を聞くのは、サントリー創業者のひ孫であり、サントリーの国内酒類事業を統括する、サントリーホールディングスの鳥井信宏副社長だ。サントリーの失敗と成功の物語、サステナビリティ、職人とテクノロジー、ネクストリーダーへのメッセージなどについて、3回にわたってお届けする。中編となる今回は、挑戦し続ける組織と人材の育み方や、ビール事業の意味と展望について聞いた。(構成/ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光、文/奥田由意)
失敗したら「すみません」で済む
ある意味「健全な無責任感」
関灘茂氏(以下、関灘) 前回は、ウイスキー事業を中心に、失敗と成功の物語をうかがいました。新しい価値の創造に、積極果敢であるように見えます。歴史ある企業でありながら、新しい価値の創造に挑戦し続ける組織や人材を育むために、どのような工夫をされているのでしょうか。
鳥井信宏氏(以下、鳥井) 誤解を恐れずに言うと、みんな、責任感がない、おそらく(笑)。サントリーの理念体系のバリューのひとつに「やってみなはれ」があります。やってみて失敗したら「すみません」で済むような、ある意味「健全な無責任感」です。そして、「もう1回、やってみなはれ」と鼓舞する風土があるのです。
今でこそ、大きな事業になっていますが、ゴマに含まれる健康成分「セサミン」を使ったサプリメントなどのウエルネス事業も長らく赤字続きでした。生き残るためには、D2C(Direct to Consumer)、つまり、顧客にダイレクトに販売するビジネスにするしかないと転換し、そこから利益が出るまでに数年かかっています。
関灘 健全な無責任感。素晴らしいですね。「やってみなはれ」は「Yatteminahare」とローマ字でも発信し、このバリューを世界に広めていこうとするほど大事にされています。
鳥井 「やってみなはれ」と「利益三分主義」。この2つのバリューはサントリーにとって本当に大切です。「利益三分主義」とは、「社会への還元」「お得意先・お客様へのサービス」「事業への再投資」を指しますが、社員に還元しないという意味ではないので、そこをわかっていただくのが難しいのですが。
余談ですが、会長の佐治信忠(さじ・のぶただ/1945〜)がサントリーのことをふと、「おもろい会社」と表現したのですが、その後、多くの社員に「おもろい会社」という言葉が浸透して、今後は新たなバリューに「おもろい」が入ってくるのではないかと(笑)。
関灘 世の中の多くの企業は、時価総額の最大化や、高い財務目標の達成などの目標を掲げています。それに対して「利益三分主義」などのバリュー、サントリーが理想とする会社像は、社会、人間、自然に関する深い理解を感じます。また、それが受け継がれ、会社全体に共有されているように思われます。
鳥井 会社全体で共有されていること、という意味では、たしかに創業当初から、社員全員、あらゆるステークホルダーのことを意識しています。
関灘 それは、たとえばどのような活動に表れているものでしょうか。