このような状況では、店頭での商品力の訴求を期待するのは難しく、ネットでパッと見て良さがわかるかブランドが認知されるような、一点豪華主義にシフトした方が良い。それがオンキヨーにはできなかった。

優れた現場があっても
それだけで製品は売れない

 最後に3つ目の敗因。これは毎度の話であるが、オンキヨーに戦略がなかったことだ。良いものを作ればいつか消費者はわかってくれる――。このような「待ち」の姿勢では、いくら優れた現場があっても、それだけで製品が売れるわけではない。

 最近アップルはiPodの販売終了を発表したが、いまだにソニーはウォークマンのビジネスを世界中で展開している。30万円以上もするような高級モデルもラインアップされている。ソニーのウォークマンの販売戦略は、ひとことでいえば松竹梅の竹をなくして「超松」と「超梅」の2本柱にしたことだ。

「超梅」は1万円前後の商品。これは、スマートフォンを持てない小中学生が外で音楽を聴くためのエントリーモデルである。一方「超松」モデルは大人のウォークマンである。hi-fi世代がハイレゾ音源を趣味として楽しむような顧客に向けて、数は少ないが確実に利益を取れるモデルを出している。

 つまり、超梅モデルで、規模の経済性を生み出すことで固定費を稼ぎ、「ハイレゾと言えばウォークマン」という高級オーディオブランドにウォークマンをスイッチさせるための超ハイエンドモデルを、持続的に開発するための土台にしていると言える。それによって、「ソニーのオーディオといえばウォークマン」「ウォークマンと言えば高いけれど超高音質のハイレゾ音楽が楽しめる商品」という、ブランド浸透を図っているのである。

 それに対してオンキヨーは、個々の製品をしっかり見るといずれも良い商品ばかりだった。しかし世の中には、しっかり紙のカタログを読み込んでくれたり、店頭で販売員に相談したりするお客さんがいなくなった。この販売の現場の変化に対応できなかったことも、オンキヨーという企業に寿命をもたらした要因だと言える。

(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 長内 厚)