TMSCとソニーの合弁を
日本政府が支援することの意義
半導体不足が深刻化し、電化製品だけでなく自動車など様々な産業の生産に影響が出始め、各国は半導体の確保競争に乗り出している。そうした中で、日本は熊本に世界最大の半導体製造企業TSMCを誘致することに成功し、ソニーグループとの合弁で22~28nmプロセスの工場を建設する。大半はTSMCの出資になる見込みだが、日本政府も6000億円規模の基金をつくり、その多くを新工場の補助に当てるといわれる。
TSMCは昨年にも、米国に5nmプロセスの最新の半導体工場を建設することを発表している。米国に最新プロセスの工場を作るのに対して、日本には10年前の技術、世代でいうと4~5世代古い22~28nmクラスの工場を作るということに対して懐疑的な意見もある。しかし筆者は、12月16日に放送されたNHK『クローズアップ現代+』で、この日本政府の決定は今までにない画期的な決断だと述べた。
TSMCが米国に作る工場の5nmプロセスの半導体と、日本に作る工場の22~28nmプロセスの半導体がどれほどの世代差かといえば、5nmプロセスが今年発表されたアップルのiPhone13に搭載されているA15Bionicチップに使われているのに対し、2013年に発売されたiPhone5sに搭載されたA7チップが28nmプロセスであったといわれる。
こう聞くと「今さら古い工場を作ってどうするのか」と思われるかもしれないが、製品開発はなんでもかんでも新しいものや高性能なものが良いという話ではない。製品は複数の部品やモジュールから成るシステムであるが、全体として製品コンセプトに合致するようにバランスの良い部品が選択され、調整されてひとつの製品になる。街乗りのコンパクトカーにF1のエンジンを積んだり、山手線に新幹線のモーターを積んだりするのがオーバースペックでバランスが悪くなるのと同じだ。
半導体と一口に言っても様々な種類があり、製品によって用途が異なる。半導体の種類については後述するが、22~28nmレベルのプロセスは、現在生産されている自動車や電化製品に多く用いられている半導体であり、今特に不足しているのがこの世代の半導体なのである。報道で報じられているように、自動車の生産が減産に追い込まれたり、家庭の給湯器や電化製品の製品が滞っていたりするというのは、この世代の半導体の不足によるものである。