あらゆる職種の中でも人気が低く、労働生産性が低いのが「営業」でした。しかし、そんな時代は終わりを迎えようとしています。成長著しい最先端企業は、「できる営業」に多額の報酬を払い、企業の成長エンジンに「営業」を据えています。では、どのように「できる営業」へと生まれ変わればいいのでしょうか?『NEW SALES』では、これまでの古い営業から脱却し、新しい営業「NEW SALES」に進化する方法を紹介しています。本連載では『NEW SALES』のエッセンスを紹介。「NEW SALES」を実践すればあっという間に「売れる営業」に生まれ変わります。

【営業必読!】あなたの「ソリューション営業」が失敗しているたった一つの理由Photo: Adobe Stock

機能不全に陥った「ソリューション営業」

 1980年代、営業の世界で起こった「ソリューション営業」の台頭。その威力のすさまじさは、前回の連載(「「商品を説明するだけ」の営業は通用しない!抜群の結果を出す営業担当者がやっている一つのこと」)でお伝えしました。

 では現在の営業の世界は、「プロダクト営業」から進化した「ソリューション営業」がベストかというと、実はちょっと違います。私は、この「ソリューション営業」でも形骸化が進んでいると痛感しています。

 1987年に出版された営業活動の古典的名著『Making Major Sales』(邦訳『大型商談を成約に導く「SPIN」営業術』)。この本では「ソリューション営業」を実現するためのポイントを、営業から顧客への「質問」であると提唱しています。

 商談の流れに沿って「状況質問(Situation)」「問題質問(Problem)」「示唆質問(Implication)」「解決質問(Need-Payoff)」という4つの質問を組み合わせることによって、「ソリューション営業」を推進するというメソッドがSPIN営業術です。

 例えば、教育研修の営業をする場合は、SPIN営業術だと次のような流れで進みます。

状況質問(S)「どのような教育研修を実施していますか?」
問題質問(P)「現在、実施している教育研修で改善したいことはありますか?」
示唆質問(I)「一方通行の講義だと、参加者が十分に内容を理解できないまま進んでしまいませんか?」
解決質問(N)「研修の中で双方向の議論ができれば、参加者がより深い学びを得られると思いませんか?」

「ソリューション営業」について解説した『「SPIN」営業術』の発売以来、多くの営業担当者は、「御社の課題は何ですか?」といった質問を顧客に投げ掛けるようになりました。そして、質問から引き出した顧客の課題に、自社の商品やサービスを紐付けて紹介するようになっていったのです。

「課題は何ですか?」ばかり聞いても意味がない

 しかし私は、『「SPIN」営業術』で紹介されているような質問を通して顧客の課題を引き出す「ソリューション営業」が、機能不全を起こしている場面を、あちこちで目撃してきました。

 そもそも、どの会社の営業担当者も「御社の課題は何ですか?」と顧客に聞くので、同じように問い掛けるだけでは、ライバルとの差別化につながりません。それも「御社の課題は何ですか?」という質問が有効なのは、顧客が自社の課題を明確に把握できている場合に限ります。課題が明確ではなく、顧客も把握できていないような課題の場合、いくら問い掛けても答えは出てきません。

 潜在的な課題を引き出すには、顧客の課題を営業担当者が示唆するような「示唆質問」や、課題の解決方法を提示するような「解決質問」が有効です。

 しかし、顧客が気付いていない課題を営業担当者が示唆するというのは非常に難易度の高いことです。

 私自身、自社の営業担当者と一緒に商談に同行したり、顧客の営業担当者に取材をしたりしてきましたが、営業担当者が商談で顧客に合わせて的確に示唆質問や解決質問を投げ掛けられているケースはほとんどありませんでした。

 顧客に対して、単に情報を提供するのではなく、顧客の情報を収集し、課題を見抜き、その解決方法を提案する「ソリューション営業」は年々、重要になっています。

 しかしそんな「ソリューション営業」にも限界はあります。これからの時代は、「ソリューション営業」からさらに一段踏み込んだ、新しい営業が必要になってくるのです。

これからの時代に必要な
「ストーリー営業」という手法

 マーケティングの世界には「ドリルと穴」という考え方があります。

 顧客はドリルそのもの(方法)を買いたいのではなく、ドリルを使って開けた穴(価値)を買いたいのだ、という考え方です。それも、顧客は突然、壁に穴を開けたくなるわけではありません。

「こんな家を造りたいと思い浮かべる」(理想)
「壁にラックを立てたいが、ラックをはめる穴がないと気付く」(課題)
「壁に穴を開ける道具が必要だと気付く」(価値)
「穴を開けるためにドリルを買いたいと思う」(方法)

 この流れに合致した際、初めてドリルを買うのです。

 これからの時代に求められる営業とは、「このドリルはこんなに性能がいいんですよ」と売り込む「プロダクト営業」ではなく、「どんなことにお困りですか?」と聞く「ソリューション営業」でもありません。

 顧客と共に理想の家を描き、そこに必要な穴を見つけ、最適なドリルを提示するような営業です。

「理想→課題→価値→方法」のストーリー(物語)を顧客と一緒に組み立てられる営業、「ストーリー営業」がこれからの時代には必要になってくるのです。