「総則6項」多用化の背景に
国税局の富裕層PTあり?!

 2014年には、住宅建材メーカー大手・トステム創業者の相続資産である株式評価額を巡り、国税局が申告漏れを指摘し否認。長女は過少申告加算税を含め60億円超の追徴課税を支払うことになった。

 16年、精密機器メーカー・キーエンス創業者の長男が贈与税申告した資産管理会社の株式評価について、こちらも「著しく低い」との判断で否認。過少申告加算税含め300億円超の追徴課税となった。

 18年、教育関連事業の中央出版でも、創業者の相続で非上場の自社株評価が低過ぎると、国税局が申告漏れを指摘。過少申告加算税を含む追徴課税は約60億円。遺族はこの課税処分を不服として、国税に再調査を請求したが、最高裁で上告棄却・上告不受理となり、納税者側が敗訴した。

 19年、光学機器大手・HOYAの元社長の遺産である非上場の資産管理会社の株式評価についても、国税局が否認し、申告漏れを指摘。過少申告加算税を含む相続税の追徴課税は約50億円となった。

 上記はいずれも、相続人は「財産評価基本通達」の定めに従って評価額を計算し、申告を行っている。ところが、国税局はこの通達の定めにより難い場合の評価として、「総則6項」を振りかざしたのだ。

 前項でも述べたように、「総則6項」は例外規定である。“伝家の宝刀”と呼ばれる通り、いざというとき以外には、めったに使用しない奥の手であるはずだ。にもかかわらず、近頃、多用されている。なぜか。それは、国税局に設置された「重点管理富裕層PT」と無関係とはいえないだろう。

「富裕層PT」とは、資産運用の多様化・国際化が進む中、有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な高額所得者など、いわゆる“富裕層”に対し、国税庁が積極調査を行うためのプロジェクトチームだ。

 通常、税務署は個人課税課、法人課税課、資産課税課など、各課で情報収集に当たるが、「富裕層PT」は各課から召集された精鋭がチームを編成し、将来の相続税課税も含め、情報を収集・分析する。2014年にまず東京、大阪、名古屋の各国税局に設置され、17年に全国の国税局へと拡大した。

 先頃、キーエンス創業者の滝崎武光名誉会長が、保有する自社株約4000億円分をキーエンス財団に寄付して話題となった。当財団は、大学生を対象に返済不要の奨学金を給付する公益法人である。設立者は滝崎名誉会長だが、公益法人認定法により社会の公益性を認められているので、営利は追求しない。

 したがって、寄付である以上、寄付者にも、株式発行企業にも見返りはない。とはいえ、公益法人への寄付は「社会貢献」をアピールでき、企業の信頼感も高まる。市場の評価が高まれば、株価も上がる。

 一方で、滝崎名誉会長の相続税対策という見方もある。滝崎武光氏といえば、米経済誌『フォーブス』22年版の世界長者番付61位の資産家で、資産額は239億ドル(約2兆9400億円)とされる。16年の失敗経験から、将来の相続を見据えた“伝家の宝刀に対抗する遺産減らし”の側面を伴うとの見解だ。

 公益法人等への寄付は、今後、「総則6項」に対抗し得る、富裕層の相続税対策となるのだろうか。