バイデン大統領Photo:Yuichi Yamazaki/gettyimages

再び動き出した米国
中国への対抗軸を打ち出す

 米国は、オバマ政権の時に、環太平洋地域での対中国の対抗軸とするため、高い自由化度を実現した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉を主導していた。しかし、トランプ政権下になると、米国は一転してTPPから離脱し、環太平洋地域での米国の存在感は、大きく低下することとなった。

 これに対して中国は、一帯一路のネットワークを環太平洋はもとより全世界に広げ、インフラ投資をサポートする覚書などの締結によって、中国を中心とするネットワークを形成していった。

 また、中国は、日本・中国・韓国に、ASEAN10カ国、さらにオーストラリア、ニュージーランドを加えた計15カ国からなる自由貿易協定である「東アジア地域の包括的経済連携」(RCEP)に参加した。RCEPは、TPPに比べて自由化度は低い代わりに参加国は多く、東アジア地域を代表するメガ自由貿易協定(FTA)となり、その中で最大の貿易国である中国の存在感は一段と高まった。

 このように、環太平洋地域での米国の存在感は低下する一方であったが、ここにきてようやく米国も動き出した。バイデン米大統領の来日に合わせて、まず日米豪印首脳会合(QUAD)が開催され、「自由で開かれたインド太平洋」の実現が確認された。また、米主導でインド太平洋経済枠組み(IPEF)の立上げに関する首脳会合が開かれ、共同声明が出された。

 米中対立が続く中、米国は、TPP離脱後の対中国の対抗軸を打ち出す必要性があるという問題意識を持ち続けていたのであろう。ロシアのウクライナ侵攻が始まり、米欧と中ロの対立が、環太平洋地域にも飛び火してくる危険性が認識されるようになったことが、今回の一連の動きにつながったのかもしれない。