「俺は力を出し切って戦った。でもヤツはそんな俺に攻めさせなかった。これはやっぱり、ヤツが一流の証明なんだ」とね。

 そして、「そんなすごいやつと戦えたということ自体、俺にとってはすごく幸せなことだったんだ」――そう見かたを変えた時に、俺の心の中でバターがとけ出し、絶望が希望に変わってしまった。

 挫折がいつの間にか勇気になった。

「逃げなかった」からこそ、その後の猪木がある

 逃げるだけじゃ何の解決にもならない。わかってはいても、人間こういう修羅場になると、とにかく逃げたがる。人間の弱さだろう。俺だって辛い。身を切られるより辛い。

 ドタン場でこそ、こちらの本質を見られている。こいつは逃げるのか、困難にさらに立ち向かっていこうという根性があるのか?とね。

 だからこそ、

「どんなときでも逃げたらダメ。どんなに苦しくても、一度自分をトコトン追い詰めてみる」

 俺はここから本当の「自分」というものが見えてきたように思う。