経営に必要なデザイン批評の技術

 ちょっと笑ってしまったのが、第6章の「扱いにくい人々、やっかいな状況」です。タイトルを見ただけで「ああ、あれね」と思い当たる人は多いはず。そう、誰もが直面するチームマネジメントや人間関係の対処方法が取り扱われているのです。

 感情と感情のぶつかり合いを防ぎ、本当にいいものを作るためにどうすればいいか。こればかりは頭で考えても現実は一筋縄にはいきませんが、幾つもヒントをもらいました。

 今、「経営にもデザイン思考が必要だ」という認識が広がりつつあります。でも、正直なところ、ブームに乗じて中途半端にデザインをかじる人が増えると、かえってクリエーティブな業務にマイクロマネジメントが増えちゃって厄介かも……なんて視点も心配になるところです。

 本書を読んではっきり分かったのは、デザインを経営に生かすなら、定性的なものやセンスに関わるものに対しても、経営に関わる全ての人がきちんと理由のある意見を言う準備が必要だということです。感情や嗜好だけに流されない批評の技術こそ、これからのビジネスパーソンに必要なものではないでしょうか。

 ちょっと気になるのは、本書がもともと米国で出版されたものだということです。まえがきは「批評には投資が必要だ」という力強い一文で始まります。米国は日本よりずっとディスカッション技術にたけた国、というイメージがありますが、それでも批評文化づくりに投資が必要というのですから、日本のビジネス環境に浸透させるには、さらなる苦労がありそうです。日本の状況を反映した、日本のためのデザインコミュニケーション論が待たれます。