「聞く力」がある人が本当にやっていること写真はイメージです Photo:PIXTA

 聞く力のある人、とはどんな人か。具体的には、以下の三つの要素が必要であると考えられる。

【1】 共感力
【2】 理解力
【3】 解決力

【1】 共感力
 話す人には、何か聞いてほしいことがある。そのとき、話す人の心情を理解しようと努め、その話を肯定し、自分ごとのように共感し、話す人と心を通わせる。このような態度を示す人がいる。いわゆる(こころで)聴く人である。その際には、あなたの話をしっかりと聞いていますよ、というサインを送るために、しぐさをまねる(ミラーリング)、話をそのまま繰り返す(バックトラッキング)などをする。

「〈聴く〉というのは何もしないで耳を傾けるという単純に受動的な行為なのではない。それは語る側からすれば、ことばを受けてもらったという、たしかな出来事なのである」(『聴くことの力』鷲田清一)

 聞く行為において、この共感力はここ最近とくに重要視されるようになってきている。

【2】 理解力
 相手の話の内容を論理的に理解しようと努めることである。具体的にいえば、5W1H(いつ、どこで、なにを、誰と、なぜ、どのようにするか)を連続的、体系的に的確に把握することである。しかしながら、自分の得意な領域、慣れた分野であればよいのだが、よく知らないことについて、説明されたことを理解するのは大変難しい。

「文章の中の単語それぞれについて、一番高い確率の単語の組み合わせを計算して求めれば、文章を翻訳できます。確率の高いものの組み合わせを挙げると単語対応が決まってくる。単語対応が決まれば、確率的対訳辞書もできる。どちらかが決まればどちらかが決まるという鶏と卵のような関係です。計算上はランダムな初期値を入れて出発して、片方から相手(確率的対訳辞書から対訳文における単語対応、すなわち彼女という語の訳に当たる単語she)を求め、また相手側から片側を求める(対訳文における単語対応の出現頻度から確率的対訳辞書、すなわち彼女がsheに翻訳される確率は7割)というふうに、ぐるぐる計算を回していくと、そこそこ適当な値で収束します。これが統計翻訳の基本原理です」

(ダイヤモンド・オンライン「組織の病気」2022年2月21日掲載『進歩がすさまじい「機械翻訳」、その理由をトップ技術者に聞く』から)

 上記は、当連載で行った以前の対談からの抜粋である。この分野の研究者でもなければ、一読ではなんのことかよくわからないだろう。実は、上記の説明でさえ、一般向けにわかりやすく説明してくれているのだが、知識がない状況のなかで、論理的な把握はむずかしい。言葉の意味の把握や概念の構造理解も必要だし、背景にある歴史的な発展や、他分野への波及効果などの影響範囲なども推測できなければ、理解したことにはならない。

 今日、ロシアのウクライナ侵攻であっても、急激な円安の理由であっても、新しいAI技術の発展であっても、気候変動の及ぼす社会変化であっても、あらゆることが複雑に絡み合っており、ちょっと話を聞いたくらいで全体像を理解することはできないのである。

 したがって、聞く力がある(理解力がある)という自覚を持つためには、明晰(めいせき)な頭脳かつ継続的な努力によってあらゆることに精通しておく必要がある。