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勘違いや早とちりが多く、同じようなミスを繰り返すような人物がいる。そういうコミュニケーションがあまりうまくいかない人には「聴く力」に問題があるのかもしれない。だが、そういう人にイライラする側にも、周囲の人たちに同じような思いをさせているかもしれない。相手に自覚がないのだから、同じように自分自身もコミュニケーションの問題を抱えていてもおかしくないだろう。そこで、今回は聴いてるつもりの病理傾向について考えたい。(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明)

聴く耳を持たない相手によるストレス

「聴く力」に問題がある人物に悩まされている人も、もしかしたら自分の「聴く力」にも問題があるかもしれないと不安になってきた人も、「聴く力」について考えてみてほしい。

 コミュニケーションの基本は「聴く力」にある。饒舌な人がコミュニケーション上手というわけではない。

 一方的にしゃべりまくる相手を前にしたときのことを思い浮かべてみよう。こっちが話そうとしても、しゃべり続けて切れ目がない。やっと切れ目を見つけて話しだしても、すぐに言葉をかぶせてきて、話し手の座を強引に奪い取る。

「いい加減に黙ってくれ。少しはこっちにもしゃべらせろよ」と言いたい気持ちを必死に抑えるが、イライラしてしようがない。このように、聴く耳を持たない相手といると、かなりのストレスになる。なお、「聴く」と「聞く」の違いについては、前回の記事を参照いただきたい。

 話し上手な人は、巧みな話術で場を盛り上げることができる。ただし、饒舌なだけで聴く耳を持たない場合、場の雰囲気は悪くなる。

 一方、聴き上手な人は、相手を尊重する姿勢によって、場の雰囲気を和ませる。たとえ口下手であっても、聴く耳さえあれば、相手を心地良い気分にさせる。

 阿川佐和子さんの『聞く力』という本がミリオンセラーとなった。100万人以上がこの本を買ってみようと思ったということは、聴くことの大切さに誰もが気づきつつあることを意味しているのだろうか…と思ったが、どうもそうではなさそうだ。相変わらず、話し方について学ぼうという人が非常に多いのに比べて、聴き方について学ぼうという人は少ない。

 結局、『聞く力』という本の圧倒的な魅力は、そのタレント性にあり、特に聴くことの重要性に多くの人が気づいたわけでもなく、その本の読者が聴く力を身に付けようと本気で思ったわけでもなかったのかもしれない。