2022年3月、農林水産省のウェブサイトで4篇のSF小説が発表された。オートシェフAI、フードパッチ、宅地栽培士……といった耳慣れない言葉が飛び交うこれらの小説は、官民連携コミュニティ「フードテック官民協議会」の2050年の食卓の姿ワーキングチームが、SF思考で「2050年の食卓の姿」を描いたものだ。『SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』の共著者であり、本プロジェクトでSFプロトタイピング統括を務めた藤本敦也氏が、プロジェクトリーダーの葦津紗恵氏(三菱総合研究所)、事務局の高梨雄貴氏(農林水産省)、参加者の中島美樹氏(ポッカサッポロフード&ビバレッジ)に、SF思考でビジョンを共創する魅力を聞いた。(構成/フリーライター 小林直美、ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)
SF思考で、全員参加の議論を誘発
藤本 SF思考で未来のビジョンを描く――。国の省庁として初めての試みでしたが、取り組まれた感想はいかがですか。
高梨 全てが新しかったです。国の会議では、あらかじめ作成した文案や文書をベースに議論することが多いのですが、今回はSF思考を活用したことで、ゼロベースから自由にアイデアを出す「全員参加型」でビジョン作りができました。
葦津 SF思考は、多様な人を巻き込んでフラットに議論するためにぴったりの仕掛けだと思います。
高梨 最初に提案されたときは「え、SF?」と驚きましたが、言われてみれば、本当に今回のプロジェクトの目的に合っていました。そもそも「フードテック官民協議会」は、誰でも参加できるオープンな議論の場として発足した会議体です。普通のやり方では、多様なバックグラウンドの人が参加すればするほど議論を収束させるのが難しくなりますが、SF小説という形なら幅広い意見を反映できます。
藤本 中島さんが参加しようと思ったきっかけは?
中島 仕事でフードテックの調査をしたことがあるんです。そのときに「もう一歩踏み込んだ情報に触れたい」と思ったのが直接のきっかけです。今はどんなテーマでも、上手にネット検索すれば世界中からいろんな情報が集められるし、だいたいのことは分かります。でも、もう一つ物足りない。
人に会ったり、現場を見たりしないと実際のところは分からない、というもどかしさもあるし、個別の情報を集めるだけでは全体を俯瞰できないというモヤモヤ感もありました。私は研究部門に所属しているので、日常業務でも10年先、20年先を考えなくちゃいけない。思考の突破口を求めていたんだと思います。