なぜここまで話題になったか
短期・長期の潮流の重なり

 過去にも『年収200万円で豊かに暮らす』と似た趣旨の書籍は、度々出版されてきた。しかし今まではスルーされてきたのに、今回はこれほど注目を集めるトピックとなっている。
 
 議論の中で感じられるのは「日本経済に対する不満・不安・鬱憤」である。ここ最近の急激な物価上昇は国民に肉感的な危機感をもたらした。
 
 しかし、これは短期的なもので、もっと長期的なものもある。
 
 昭和の時代から「勝ち組になること(仕事で成功すること)こそ全て」という価値観があった。しかし、平成、令和の時代になると「そんなにガツガツしなくてもいいではないか」「仕事以外にも充実を求めるべきではないか」というカウンターカルチャーが育まれ、節約術やミニマリズムも注目されてきた。
 
 しかし何事もそうだが、針が極端に振れると元に戻ろうとする力が働く。以前、「1位至上主義」といった考え方に対して「運動会で手をつないで横一列ゴール」のような風潮が出てきて、「それはやり過ぎではないか」と世論が高まったことがあったが、あれと同じである。
 
“勝ち組主義的な考え方”と“ミニマリズム的な考え方”の間を、針は常に行ったり来たりしていて、書籍『年収200万円で豊かに暮らす』は後者に属し、そちらに針がまた振れてきていそうな気配だったので、「ちょっと待て待て」と世論が盛り上がっている。これが長期的な潮流である。
 
 今は短期と長期の潮流が相まって強い勢いを形成しており、『年収200万円で豊かに暮らす』が大注目される結果となっている。この話題の発端となったあるユーザーのツイートには「日本経済を衰退にいざなうあしき書籍がまた出てきた」といった趣旨の声が多く寄せられている。それくらい、みんな現況にイライラしているということであろう。この本が、国民の日本経済への不満のはけ口として消化されているきらいもあり、その点では不憫(ふびん)である。
 
 いろいろな考え方があるのは当然として、現段階では、みんなでああだこうだと言い合う余裕があるくらいには“豊か”である、と感じた次第である。