その「意思決定」は
本当に「考えた」結果なのか

「この3日間はとても有意義なものでした。3年ぶりに『考えた』気がします」
彼は非常に知的で、役職柄、常に意思決定をしているので、ものを考えていないはずがない。つまり、彼が「3年ぶりに考えた」と言ったのは、仕事でしているのとまったく違うタイプの思考を行ったということです。
今何が起こっているのか? 本当は自分はどう感じているのか? 自分のチームでは何が動いているのか? 応急処置だけで問題の根本的な原因に対処できていないのではないか? 自分の組織が抱えているより深い問題は何だろうか? といったことです。それは、私たちが「内省的思考」と呼んでいるものでした。
彼の言葉を聞いて、「何という悲劇だろうか」と私は思いました。何万人ものを人を雇っている大企業の最高責任者の意思決定というのは、それ以上の多くの人の人生に影響を及ぼします。
それほど重要な意思決定を、これまで習慣的、もしくは、反射的に行っているなら、それは大勢の人の幸福を損なう可能性があります。
短期的な意思決定は
リーダーが見るべきタイムスパンではない
意思決定の権限を定義する方法はシンプルです。「その人が下す決断に、どれだけの人が影響を受けるか」です。
私は、アメリカ陸軍と長く協働していましたが、軍隊というのは、典型的なヒエラルキー型の組織です。
アメリカ軍はその長い歴史の中で、ヒエラルキーを定義するのに、大変興味深い方法を打ち立てています(ちなみに、アメリカ軍は、ベトナム戦争の前後でそれまで長年培ってきたカルチャーの崩壊を経験しました。信頼を回復するのに20年かかったといわれています)。
軍隊には兵卒から将官まで、7段階の階級があり、階級は、基本的に、リーダーシップの内容ではなく、「どのくらいのタイムスパンでリーダーシップを執るべきか」を基準に決められています。
例えば、最下級層は、おもに目先の問題に対処します。意思決定してからその結果が出るまで(教育でいえば「学習サイクル」とでもいうべきもの)は、数日程度かもしれません。司令官になると、数十年単位で考えるのが理想です。司令官は今後、10年〜30年の間に「組織がどのように発展していくか」ということに影響を与える意思決定をします。
簡単にいえばこれがヒエラルキーなのです。意思決定の結果が出るまでの時間の長さ。意思決定の影響が及ぶ空間的な範囲ともいえます。10年〜30年先に影響を与える決断というのは、2〜3日間で結果がわかる場合よりも、はるかに多くの人に影響を与えることになるのです。
ところが、この30〜50年間の間に、ヒエラルキー型組織で、権威を持つ立場にいることの責任が、ほとんど失われてしまいました。歴史的に優秀だといわれるCEOは皆、自らを起業家と捉え、企業を後継者に譲るとき、「その企業の質をどう保つか」を真剣に考えていた。そしてそれを後継者にしっかりと伝える。それが、最高経営責任者としての、ごく自然な考え方だったのに、いつしかそれがなくなってしまったのです。
あるテクノロジー企業でCEOをしている知人を訪ねたときのことです。彼はハイテク企業のCEOで、非常に成功していました。彼は、自分の仕事は「組織をつくること」だと考え、CEOとして非常に成功していましたが、問題はその企業のCOO(最高執行責任者)でした。
COOのオフィスに入ってみると、銘柄コード(ティッカー)と株価を記した紙テープが貼ってありました。今、株価は一瞬で知ることができますが、昔はそうやって付箋のような紙テープに株価を記録していたのです。部屋の片隅に会社の株価が紙テープで刻々と表示されているので、「これは問題だ」と思いました。
企業内で大きな権限を持つ人が、その日の株価の変動に基づいて、とても短期的な意思決定をしている可能性があるからです。なぜ一瞬一瞬の株価情報を気にかけるのか。COOが自分の意思決定に、株価情報が必要だと判断しているからにほかなりません。
証券会社のディーラー(取引担当者)ならば、株価の一瞬一瞬の変動が、たしかに取引に密接に関係するでしょう。あるいは、多額の個人資産を株で運用しているなら、気になるかもしれません。ただ、そうであっても数カ月〜数年単位でみればいいはずです。でも、この人は、組織のオペレーションの最高責任者であって、ディーラーではありません。
しかし、テクノロジー業界のCOOやCXOは、時としてディーラーのようであり、ディーラーと同じ思考をしています。それが問題で、この傾向はますます強まっています。
――組織や「ソーシャル・リレーション」を発展させるために必要な時間と、彼らが意思決定に用いる指標との間に、完全な齟齬があるということですね。
その通りです。組織のリーダーなのに、単に経済的に重要な意思決定をするための指標を使っているのです。それが、テクノロジー業界全体に蔓延(まんえん)する病だと思います。
仕事でカリフォルニア州へ行くたびに、朝食の席で、4人ほどのビジネスパーソンが話している光景によく出くわすのですが、内容はまさに取引、取引、取引です。もちろんそれも現実の一部ですが、それでは「組織を成長させる」という意識が損なわれます。彼らの個人的なキャリアパスを見ると、組織から組織へと常に飛び回っていて、長期的な結果を重要視する意識はほとんどない。これは非常に大きな問題です。







