宗教団体を恨んで安倍氏狙う不条理…犯人は「ヘイトクライム」思考の典型だPhoto:Carl Court/gettyimages

なぜ教団の人間ではなく、安倍元首相が狙われたのか

 宗教団体を憎んでいるのなら、なぜ教団の関係者を狙わなかったのか。なぜ「関係が深い」というだけで安倍さんを殺したのか――。

 そんな強い憤りを感じている人も多いのではないか。

 安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也容疑者が供述している「動機」というものが、あまりに不条理というか、まったく理にかなっていないからだ。

 山上容疑者の母は「世界平和統一家庭連合」(旧・統一教会)の信者で、多額の寄付をしたことで山上家は破産した。「週刊新潮」によれば、少年時代の山上容疑者は壮絶なネグレクトを受けていたという。ならば、普通に考えれば、山上容疑者の憎悪は「世界平和統一家庭連合」に向けられる。自作の銃をつくって殺害を計画するとなれば、その標的は教団幹部や、実際に母親が寄付をしていた相手になるはずだ。

 しかし、ここまで教団施設の壁に「試し撃ち」をしたという情報があるくらいで、教団関係者が襲われかけたという話は聞かない。その代わりに、山上容疑者が強烈な「殺意」を向けたのが、安倍氏だった。

「安倍氏が団体を国内で広めたと思い込んで恨んでいた」(毎日新聞7月9日)
「去年9月、宗教団体の代表らが設立したNGOの集会に寄せられた安倍元首相のメッセージを見たころに殺害を決意した」(日テレNEWS 7月12日)

 確かに、「祖父・岸信介から続く深い関係」という情報はネット上に広く氾濫しているが、安倍氏自身が布教を後押しした証拠などどこにもない。百歩譲って、広告塔的に教団を応援していたとしても直接的に、山上家を破産させたのはやはり教団なのだから、まずは教団に復讐をするのが筋だろう。

 しかし、山上容疑者の頭の中では、なぜか教団よりも安倍氏の方を、自分の人生を狂わせた「主犯」として、強い殺意を抱いている。なぜこんな論理の飛躍をするのか。

 「こんな卑劣な犯罪を犯す人間の頭の中など理解できるわけがないし、したくない」と気分が悪くなる人も多いだろうが、これからの日本社会ではそうも言ってられない。

 実は今、日本でも山上容疑者のような考え方をする犯罪者が起こす事件が急速に増えているからだ。それは「ヘイトクライム」だ。