安倍氏と「統一教会」の関係を深掘りしたくない人がデマに走る

 さて、ではなぜこういう「デマ」が広まってしまうのかというと、保守系の人たちからすると、こういう単純なストーリーの方が納得感があってスッキリするからだ。

 ご存じのように、安倍氏はネットの保守系の人々から英雄視されている。そんな愛国政治家が、在日コリアンの凶弾に倒れる…伊藤博文が安重根に暗殺されたという保守系の人々の琴線に触れる歴史とも妙に重なって納得感もある。「敵」がわかりやすいのだ。

 しかし、実際は、山上容疑者には「世界平和統一家庭連合」の布教活動の被害者という側面があって、しかもこの教団は、岸信介から安倍三代が親密な関係を構築してきた。さらに、「世界平和統一家庭連合」の教祖が設立した「国際勝共連合」は、日本会議などと並んで、自民党を支持する保守系団体でもある。

 つまり、深く掘れば掘るほど「敵」がぼやけてしまう。「安倍家と統一教会」という極めて複雑なテーマにスポットライトが当たってしまうのだ。

 これは安倍氏を韓国に対して厳しい姿勢を崩さなかったヒーローだと感じている人々からすれば、なんとも「気持ちが悪い」のだ。

 だから、「山上容疑者は在日コリアンで反日イデオロギーから安倍氏を狙った」というシンプルなストーリーへ流されてしまう。

 選挙に勝つためには宗教団体とも手を組むという自民党の複雑な問題や、政治家にはさまざまな「顔」があるという面倒くさい話をするよりも、「わかりやすい敵」を設定して叩く方がはるかにラクだしスッキリするのだ。

 そして、このように「わかりやすい敵」を叩くというのは、個人的には、日本人の国民性も大きな影響を与えているのではないかと考えている。