2018年に春夏の甲子園に出場した慶應義塾高校野球部。今年も東海大相模、桐光学園、桐蔭学園と、強豪ひしめく神奈川県内を戦った。惜しくも甲子園出場はならなかったが、安定したプレーには定評がある。強さの秘密は「文武両道」はもちろんのこと「髪型自由」「長時間練習なし」といった“選手主導型のチームづくり”にある。率いるのは、森林貴彦監督だ。慶應大学卒業後に、NTT勤務を経て筑波大大学院でコーチング理論を学び、2002年に慶應義塾幼稚舎教諭に。2015年からは野球部監督となる。「知っていることを全て教えてあげたい」と思うのは指導者のエゴだと語る森林監督に、選手に自己決断を促す指導の要諦を聞いた。(取材・文・撮影/編集者・メディアプロデューサー 上沼祐樹)
野球人生は選手のもの
自分で決めることで芽生える責任
私たちは、自ら考える選手になり、自ら考えるチームになることを目指しています。そのためには、これまでの野球界にありがちだった「トップダウンでの指導」は不向き。選手に主体性をもって野球に取り組んでもらえるよう、日々工夫しています。
そのうちの1つですが、「どういうフォームで投げたいか」「どういうバッティングをしたいか」については、選手本人に決めてもらっています。そして、それを追求してもらいます。そもそも彼らは、誰かに頼まれて野球をやっているわけではありません。自分の意思で取り組んで、チームに入って、試合で活躍しようとしています。それだけ主体性をもって取り組んでいる中で、あれやこれやと指示ばかりしては、面白みを奪ってしまうことになります。
「あのプロ選手はこのような構えをしている」「YouTubeではこういった打ち方があった」と、自分で考えてきたフォームを試してもらいたいんです。なぜ、こういった取り組みをするかというと、「自分で責任が取れる」からです。