業績不振でもトップレベルの報酬を得て
やっと始まった「ロッテの反攻」

 昭夫は朴大統領に絡む贈収賄事件で執行猶予付き判決を受け、韓国の著名な議決権行使助言会社である「CGCG」や機関投資家である「韓国国民年金」は、「経済関連犯罪で禁錮以上の刑が確定した者が取締役を務めることは企業価値を毀損させる」として、昭夫の役員選任に反対する意見を表明している。 

 そうした批判をはね除けようとするかのように、「ロッテの反攻」が始まったという。事業構造の改革に向けた攻めの投資が相次いでいるからだ。

 例えば22年5月、ロッテは今後5年間で37兆ウォンを投資する大規模な投資計画を発表した。そのうち40%以上を新事業に投資するという。韓国も高齢社会に入り、今後はバイオやヘルスケアなどが最も有望な産業になるとの読みがあるようだ。

 核になるのがロッテケミカルなど化学系企業の構造改革で、すでにブリストル・マイヤーズスクイッブのバイオ医薬品生産工場を買収する契約を結び、さらに1兆ウォンを投じて韓国内にも生産拠点を設けることにした。

 またEVの充電インフラの拡充にも力を注ぎ、モビリティを軸にしてホテルや流通の事業の活性化も狙うという。つまりホテルやスーパーなどに充電インフラを1万個以上設け、自動車レンタルのロッテレンタルも8兆ウォンを投じてEV24万台を導入する。

 さらにロッテケミカルは水素事業と電池素材事業に1兆6000億ウォンを投じるともいう。そのためにまず伊藤忠商事と水素アンモニアの事業で協力する覚書を交わした。

 大規模な投資計画の公表は「2018年以来4年ぶり」(『韓国経済新聞』22年5月25日)のことであり、さらに21年11月にはロッテショッピングとホテルロッテの社長に共に外部から人材を招いた。韓国ロッテ史上、主力会社の最高経営責任者に外部の人材が就任するのは初めてだ。まさに反転の意気込みだ。

 しかし、それらの事業テーマは、どこか既視感があり、オリジナリティを感じさせるものではない。例えば『朝鮮日報』(21年1月29日)は、「(ロッテケミカルは停滞しており)競争相手だったLG化学が二次電池のような新成長動力の発掘に成功し、時価総額企業3位に跳躍したものと対比される」と報じている。二番煎じ感がぬぐえないのだ。

 そもそも昭夫にすれば、経営クーデター以後、さまざまなドタバタ劇が続き、「経営どころではなかった」というのが本音かもしれない。そして「やっと本腰を入れて取り組めるようになってきた」と。

 いずれにしても、この間の昭夫の経営が、及第点を得られるものでないことは衆目の一致する評価だろう。はっきりとしているのは、「経営の不在」であり、にもかかわらず韓国の財閥グループの統帥としてはトップレベルの報酬を得てきたという事実である。

『聯合ニュース』は、昭夫はロッテ持株と7つの系列会社で合計182億5970万ウォンの年俸を得ていたと伝えた(22年3月31日)。代表取締役を務めるロッテケミカルでは59億5000ウォンだったが、「辛会長(昭夫)は、今年に入って8回開かれたロッテケミカル取締役会に2回を除いて出席するなど石油化学事業に大きな関心を持っている」(『韓国経済新聞』21年11月22日)と、全出席でなくても肯定的に報道(評価)してもらえるのだから、ありがたい話である。

 日本ならば、これだけの高額報酬を得ている代表取締役なのだから、すべての取締役会に出席するのは当たり前であり、2回も欠席したこと自体が取締役の再任に反対される理由になるだろう。