ロッテ重光武雄が激怒!クーデター画策の3人を「クビ宣告」で“瞬殺”

ロッテグループの総帥である重光武雄に、長男の宏之が独断で進めた事業で大損したというウソの報告を繰り返すことで、宏之の追放に成功した佃孝之・ロッテホールディングス社長(肩書は当時、以下同)と小林正元・専務。だが、その悪だくみに気付いた武雄は、彼らを糾弾する“査問会”を開き、クビ宣告で“瞬殺”する。しかし、査問会では、二男の昭夫もまたクーデターの首謀者の一人ということが明らかになり、ここから武雄・宏之親子と昭夫・佃・小林のクーデター3人組の対立が先鋭化していく。(ライター 船木春仁)

宏之追放の悪巧みに武雄が大激怒
クーデター3人組を一族で糾弾

 2015年7月3日、ソウルのロッテホテル34階にある武雄の執務室。わずか7カ月前に武雄が宏之を怒鳴りつけ、宏之追放のきっかけとなった“舞台”が今度は、宏之を追放したクーデターの首謀者たちに事情説明を求める場へと姿を変えていた。

 この日は、毎月定例で行われていたロッテHDの月次営業報告の日だった。ただし、この日の報告会は実際には、宏之追放の悪巧みを謀った面々に事情説明を求める“査問会”だった。ロッテグループのオーナーである重光一族の後継者たる宏之の追放は、重光一族の問題でもある。会合には武雄・宏之親子に加え、武雄の実弟(四男)の辛宣浩(シン・ソンホ・日本のサンサス商事創業者)、長女の辛英子(シン・ヨンジャ)も参加した。かたや事情を聞かれたのは、佃と小林、そして二男の昭夫の3人で、昭夫は遅れて参加することになっていた。昭夫は96年に韓国籍を回復し、韓国ロッテグループ会長として韓国事業を担当していた。昭夫の立ち位置がどちらなのかは微妙だが、この日の会合は、重光一族が、宏之を追放したクーデターの首謀者たちを糾弾する、いわゆる“査問会”だったというわけである。

 そもそも宏之のロッテグループからの追放というクーデターが勃発したのは14年12月のことだ。その経緯をかいつまんで説明しよう。

 12月7日、宏之が独断で進めたIT事業で巨額の損失を出したという佃のウソの報告を信じ込まされた武雄は宏之に「クビだ。辞めろ!」と怒鳴りつけた。あくまで親子ゲンカで飛び出した言葉だが、その翌々日に佃や小林らは武雄を直接訪ね、武雄の“クビ発言”があったことを確認。それを“天の声”として、3日後には宏之を、ロッテHDはおろか、グループ会社26社すべての役職を解職・解任する手続きを進めたのである。兄の追放という非常事態に、実情を知るはずの弟・昭夫は「会長の命、ご下命でありますので」と、なぜか佃や小林の尻馬に乗るかのように賛同した。さらに年明け1月8日のロッテHDの臨時株主総会で、宏之をロッテグループから追放してしまうのである(『ロッテを奪われた男・重光武雄 ロッテ後継者を巡る「陰謀」の裏側――周到に準備されたクーデター計画』より)。

 武雄が宏之のクビを口にしてから、宏之の追放までわずか3週間。これは電撃的解任などではなく、用意周到にクーデターのシナリオが用意されていたとしか考えられない。

 ここまでの経緯を御覧になった読者は当然、次のような疑問を持たれたことだろう。

「なぜ、後継者の長男が追放されるクーデターが起きたのに、半年も放置したのか?」

 その理由は、驚くなかれ、武雄が宏之追放の事態を知ったのは半年後。佃に騙されて怒声を浴びせて以来、半年ぶりに面会を許した宏之から直接聞いて初めて知ったのである。

 武雄が知らなかった理由は容易に推測できる。解任の経緯を知らない者にすれば、武雄の“ご下命”で宏之が解任されたのだから、わざわざ武雄に報告することもない。宏之追放後、韓国系メディアは「武雄が後継者を二男に変更した」「宏之が韓国ロッテグループの企業の株を秘かに買い進めて武雄の逆鱗に触れた」などの風説を報じた。誰が噂を流しているのかは容易に見当が付いただろうし、宏之追放に言及することはロッテ内でタブーとなったのだろう。

 不可解なのは、月次報告などで武雄と頻繁に面談する佃や昭夫が宏之追放の報告をしなかったことだ。「ご下命の通り、宏之氏を追放しました」という業務報告は役員の責務のはずだ。武雄の本意ではない宏之追放を怖くて報告できなかったのか、武雄を蚊帳の外に置いてさらなる陰謀を企てていたのか。ぜひ、彼らに報告しなかった理由を尋ねてみたいものだ。いずれにせよ彼らは、宏之追放のような重大情報を半年以上も隠し通せるくらい、武雄を“裸の王様”にしてしまう態勢を築けていたということになる。

 話を武雄に戻そう。1月の追放以来、誤解を解きたいと何度も宏之が訪ねて来たが、宏之がグループを追放されたとは露知らず、門前払いを喰らわしてきた。武雄にすれば、常日頃から父親に口答えし、独断で進めた事業で赤字を出した長男にはしばしお灸でも据えてやれ、という気持ちだったのだろう。

 だが、前述したように、5月のゴールデンウィーク明けに半年ぶりに面談に応じた武雄は、宏之の報告を聞いて驚愕し、激怒した。

 それも当然のことだ。武雄が聞かされていた宏之の赤字は大ウソで、むしろロッテグループで大赤字を出しているのは昭夫が進めた中国事業であり、100億円単位で赤字を垂れ流している。しかも自分の「クビ発言」を“ご下命”として宏之を追放し、グループ会社の社長職は佃が取って代わっていた。これで、佃や小林がわざわざソウルに来てクビ発言の有無を執拗に尋ねた真意もわかった。武雄は、佃や昭夫らにいいように騙されていたのだと確信した。