ロッテが減損と不祥事の連続でも、“プロ経営者”の年俸は「韓国トップレベル」の謎

クーデターによって日韓ロッテグループの経営権を手にした創業者の次男、重光昭夫。以来7年、経営者としての力を証明するには十分な時間が過ぎた。しかし、日韓のロッテグループは、長い低迷から抜け出せないでいる。米コロンビア大学でMBAを取得した昭夫は「プロ経営者」としての強い自負を持っているだろうが、経営成績を見る限り、及第点には到達していない。(ライター 船木春仁)

尹政権の「安米経中」から
「安米経米」への転換の影響は?

 2022年5月10日、韓国・ソウルの国会議事堂前では、尹錫悦(ユン・ソクヨル)新大統領の就任式が開かれた。国賓や要人らが並ぶ「主要人事席」には、韓国の5財閥と6経済団体のトップが招かれ、式を見守った。招待客に正対して一番右側にサムスン財閥の3代目にしてサムスン電子副会長の李在鎔(イ・ジェヨン)がおり、その左側にいたのがロッテグループ会長の辛東彬(シン・ドンピン 日本名・重光昭夫)だった。

 韓国大統領の就任式に財閥や経済団体のトップが招かれるのは、13年の朴槿恵(パク・クネ)大統領の就任式以来のことだ。招待客は就任祝いの夕食会にも招かれたが、これは本当に稀のことであるという。

 経済人への厚遇は、新政権が従来の政策を大きく変える決意であることを示していた。03年に発足した盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権から取られてきた「米中バランス外交」、つまり「安全保障はアメリカ、経済は中国」という「安米経中」政策を、尹政権は、安全保障も経済もアメリカ中心の「安米経米」に切り替えることを鮮明にしたのだ。

 権力の政策変更を、就任式や夕食会に参加していた昭夫はどのような思いで受け止めていただろうか。14年から15年にかけての経営クーデターにより日韓ロッテグループの統帥の座を簒奪したが、ビジネスの面では「安米経中」の流れのなかで、最も苦渋をなめさせられたのがロッテグループであったからだ。

 その象徴が中国の瀋陽や成都での投資額が1000億円規模となる大型プロジェクトの挫折だった。例えば「瀋陽ロッテタウンプロジェクト」。中国東北部の交通の要所である「瀋陽北駅」の北側に、清の時代を再現したテーマパークを中核に、ホテル、百貨店、高層マンションなどを建設し、年間3200万人の集客を見込んだ観光と流通の複合施設を建設するもので、11年8月に着工した。14年5月には「瀋陽ロッテ百貨店」がオープンする。

 スーパーマーケットの「ロッテマート」も中国に進出。最盛期には4つの百貨店と112のロッテマートを出店。他にも韓国ロッテグループ傘下のロッテ製菓やロッテ七星(チルソン)飲料が中国国内に6つの生産工場を持つまでになった。

 しかし16年、アメリカの最新鋭地上配備型迎撃システム「終末高高度防衛ミサイル(THAAD)」が、韓国内のロッテが保有するゴルフ場に設置・配備されることが決まると、中国政府は強烈な報復に出る。瀋陽ロッテ百貨店の隣接地で建設中だった「ロッテワールド瀋陽」が手続きの不備を理由に建設を中止させられ、ロッテマートの各店にも税務調査や消防衛生点検などが矢継ぎ早に入り、事業の継続が困難になる。

 結局ロッテは、ロッテマートの事業撤退、4つあった百貨店のうち3店の閉店、ロッテ製菓関連の4工場の閉鎖などに追い込まれた。百貨店で唯一残っている成都店も風前の灯火だ。韓国SBSテレビは22年3月、上海市に置かれていたロッテグループの中国本部が「近く解散する」と報じた。