コロナは「何を」加速させたのか?これからの新しい当たり前Photo: Adobe Stock

情報が次から次へと溢れてくる時代。だからこそ、普遍的メッセージが紡がれた「定番書」の価値は増しているのではないだろうか。そこで、本連載「定番読書」では、刊行から年月が経っても今なお売れ続け、ロングセラーとして読み継がれている書籍について、著者へのインタビューとともにご紹介していきたい。
第1回は、2019年に刊行された山口周氏の『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』「人生のゲーム」が変わってきていることを、明快に記した1冊だ。4話に分けてお届けする。(取材・文/上阪徹)

「読んでいて辛かったが読み切った」という声

「新時代を生き抜く24の思考・行動様式」というサブタイトルのついた『ニュータイプの時代』。こう変わる必要がある、というキーワードが明快に言語化されていくわけだが、当然のことながら「オールドタイプ」を信じてきた人にとっては、耳が痛い話が続くことになる。山口氏はいう。

山口周山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者、著作家、パブリックスピーカー
電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『ニュータイプの時代』『ビジネスの未来』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。株式会社中川政七商店社外取締役、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。

「中にはオールドタイプとニュータイプの分断を煽る本だ、という指摘もあったりもしました。ちょっとびっくりしたのは、典型的に偏差値の高い大学を出て、外資系のコンサルティング会社から事業会社に入って役員を務めている若い人から、読んでいて辛かった、と言われたことです」

 ただ、辛いと思いながらも読み切ったと言われたのだという。

「それこそ、我が意を得たり、というところでしたね」

 古い価値観に疑問を持っていた人は少なくなかったのだろう。周りに古い価値観のオールドタイプがいる人にとって、理解し合えないジレンマには辛さを感じる。だが、多くは「とても面白かった」「バイブルみたいにして読んでいる」といった好意的な反響だったという。

 刊行されたのは、2019年と新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前だが、コロナ禍を経て、より重要性が増したと感じた項目もあった。12番目に挙げられているモビリティ「複数の組織と横断的に関わる」もそうだ。

リスクのタイプが異なる複数の仕事を持つ

 オールドタイプの思考・行動様式「一つの組織に所属し、留まる」に対し、ニュータイプは「組織間を越境して起動する」と説く。

「なぜ企業はなくならないのか、をテーマにしたロナルド・コースの問いについて紹介していますが、それは市場で活動する際の費用が最小化できるからです」

 山口氏は本書で、「企業は社会主義が唯一残る場所」と書いている。社会主義国家のような統制と管理によって取引が行われている存在だからだ。そして、こう続く。

 市場が社会における適切なリソースの配分を実現してくれるのであれば、誰もがフリーエージェントとして働き、必要に応じてプロジェクトを組んで協働し、プロジェクトの終了後は解散するというやり方こそ最も効率的なはずなのに、なぜ多くの人は大規模で官僚的な組織に所属し、その中で経済活動を行っているのだろうか。

 そのキーワードこそが、情報だった。そしてデジタル技術の進展がこの問題を大きく変えている。本来のあるべき姿に向かっているということだ。それは何かといえば、「越境」して仕事をしていくことである。

 一つの仕事だけをやっていれば、その仕事にダウンサイドの波がやってきた際、生活は破綻してしまうことになります。ということで、結論は「リスクのタイプが異なる複数の仕事を持つ」というのが正しい戦略だということになります。

 コロナによってリモートワークが当たり前となり、必然的に越境して仕事をすることがやりやすくなった。今後は、「複数の組織と横断的に関わる」ニュータイプが、ますます当たり前になるかもしれない。

各界著名人の名言をなぜ入れたのか

 24の思考・行動様式が紹介されているが、特徴的なのは、各項の冒頭が極めて丁寧に作られていることだ。例えば8番目「『直感』が意思決定の質を上げる」は、このようなショルダーがつけられている。だから、極めてわかりやすいし、本文に入っていきやすい。

【論理と直感】
オールドタイプ→論理だけに頼り、直感を退ける
ニュータイプ→論理と直感と状況に応じて使い分ける

 山口氏はその理由をこう語る。

「これからどういう趣旨の話をしますよ、というイントロダクションをしっかり行うことは、コンサルタント時代に鍛えられました。いきなり話をされてしまうと、みんなロストしてしまうんです。一つのテクニックですね」

 そして、強く印象に残るのが、この冒頭に著名な人たちの名言が加えられていること。8番目「『直感』が意思決定の質を上げる」なら、スティーブ・ジョブズ。

直感はとってもパワフルなんだ。
僕は、知力よりもパワフルだと思う。
この認識は、僕の仕事に大きな影響を与えてきた。

 ピカソ、モンテーニュ、吉田兼好、トーマス・マンなど各界の著名人の名言は、24の各項の冒頭だけでなく、あちこちに散りばめられている。

「名言って、深みのあるエッセンスを言い切れているので、喚起力があるというか、イメージが膨らむと思うんです。その先に伝えることのエッセンスがつかみやすくなります。名言は、いいですよね」

 山口氏の選りすぐりの名言だけに、なんとも興味をそそる。また、歴史的なエピソードがたくさん盛り込まれ、ロジックを後押ししているのも、大きな特徴だ。知的刺激をもらいながら、どんどん読み進められる。そんな一冊になっている。

上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『子どもが面白がる学校を創る』(日経BP)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

【大好評連載】
第1回 「頑張っているのに報われない…」そんな人が根本的に勘違いしていること
第2回 なぜ、いい大学を出ても社会で生き残れないのか?
第3回 成功の明暗を分ける「真似されてもコピーできないもの」とは?

コロナは「何を」加速させたのか?これからの新しい当たり前