情報が次から次へと溢れてくる時代。だからこそ、普遍的メッセージが紡がれた「定番書」の価値は増しているのではないだろうか。そこで、本連載「定番読書」では、刊行から年月が経っても今なお売れ続け、ロングセラーとして読み継がれている書籍について、著者へのインタビューとともにご紹介していきたい。
第2回は2007年に刊行、大ベストセラーとなり、今でも定番書として読まれ続けている渡辺健介氏の『世界一やさしい問題解決の授業』だ。問題解決ブームの火付け役になった1冊。4話に分けてお届けする。(取材・文/上阪徹)

「刊行から15年経っても大人気」<br />ベストセラー書が教える問題解決で一番大事なことPhoto: Adobe Stock

起点は「こうしたい! ああしたい!」という思い

 そもそも問題解決とは何か。『世界一やさしい問題解決の授業』では、渡辺氏はこう表現している。

 問題解決とは、ひらたくいえば、「現状を正確に理解し」「問題の原因を見極め」「効果的な打ち手まで考え抜き」「実行する」ことです。
 たとえば、「数学の成績が下がってきた」としましょう。ただ「下がってきた」という現状や現象を理解しただけでは、何も変わりません。どんな問題が解けなかったのか、なぜ解けなかったのか、原因を見極められれば、一歩前進です。
 さらに、どうすれば解けるようになるか、効果的な打ち手まで考え、実行に移して初めて、問題解決ができたといえます。

 だが、この問題解決の前提は、「下がってきた数学の成績を上げたい」という思いがあってこそだ。渡辺氏はインタビューで「思い」の重要性についてこう語った。

「問題解決をする起点には、『こうしたい! ああしたい!』という思いが必要です。野球少年であれば甲子園に出場したい、バンドマンなら武道館でコンサートをしたい、ビジネスパーソンなら鳥肌が立つほど人を感動させるような商品を生み出したい……。テーマは人それぞれですが、その思いなしには問題解決のプロセスはそもそも始まりません」

表面的なスキルとしてだけ捉えられる危険性

「刊行から15年経っても大人気」<br />ベストセラー書が教える問題解決で一番大事なこと渡辺健介(わたなべ・けんすけ)
デルタスタジオ 代表取締役社長
イェール大学卒業。ハーバードMBA卒業。マッキンゼーの東京とニューヨークオフィスに勤務後、デルタスタジオを設立。著書の『世界一やさしい問題解決の授業』は国内50万部超、世界25ヵ国、15言語以上で発売の世界的ベストセラー。その他の著書に『世界一やさしい右脳型問題解決の授業』『自分の答えのつくりかた』(以上、ダイヤモンド社)がある。(https://whatisyourdelta.com/

『世界一やさしい問題解決の授業』は、またたく間に大ヒットし、取材が殺到した。しかし、渡辺氏はその取り上げられ方に関して少し違和感を持ったという。

「もちろん問題解決力は重要なんですが、表面的なスキルとしてだけ捉えられてしまっている印象がありました」

 こうしたい、ああしたい、という気持ちがあるからこそ、問題解決のスキルは生きてくる。スキルのところばかりが取り上げられ、頭でっかちなスキルブームのようなものになってしまうことを心配していた。

 だからこそ渡辺氏は、子どもたちに問題解決力を教えるときは、同時にワクワクする挑戦に取り組んでもらっているという。

「ゼロから移動式飲食店を立ち上げる、チャリティーオークションを企画・運営するなど、ワクワクする挑戦を通じて、問題解決を実践してもらっています」

 こうした挑戦を繰り返していくことで、主体的に実現したい絵を描き、問題解決をする習慣と自信が身に付いていくのである。

より主体的に生きることができるようになる

 本のまえがきの冒頭にも、夢や思いの重要性について書かかれていた。

 みなさんの将来の夢は何ですか? 今どのような悩みがありますか? 壁に直面したとき、自分の力で乗り越え、人生を切り開いていけるという自信はありますか? それとも、あきらめてしまいそうですか?
 この本で紹介する「考え抜く技術」、そして「考え抜き、行動をする癖」を身につければ、(中略)日常生活で直面するさまざまな問題を解決できるようになります。そして、自分自身の才能と情熱が許す限り、夢を実現する可能性を最大限まで高めることができるようになります。
 つまり、自ら責任が持てる人生、後悔しない人生を生きることができるようになるのです。

 問題解決がテーマの本で、こんな文章が書き出しにあるのである。まさに「こうしたい、ああしたい」から始まっていたのだ。多くの読者、とりわけ子どもたちは、この本が単なるスキルについて書かれた本ではないと早々と気づくことができたのではないか。

 あとがきには、こうも書かれている。

 問題解決能力を身につければ、より主体的に生きることができるようになります。多面的に物事を見る力、本質を見極める力、打ち手を具体的な行動に落とし込む力を鍛えることができるからです。

 渡辺氏のメッセージは、読者にはきっと伝わっていたに違いない。
(次回に続く)

上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『子どもが面白がる学校を創る』(日経BP)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

【大好評連載】
第1回 日本とアメリカの教育の違いが教える「自分の頭で考える」ということ
第2回 どうすれば日本から「シェリル・サンドバーグ」を輩出できるか?
第4回 「あなたの順番を待つ必要はない」自分から仕掛ける力を身につけるには?

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