作家の北方謙三氏作家の北方謙三氏 Photo:JIJI

論壇の寵児となった
経済・社会思想家の斎藤幸平

 東京タワーのすぐ近く、東京・港区にある私立の男子校で、高校からの募集は行わない完全中高一貫校だ。浄土宗をバックに明治時代に設立され、名門の進学校として各界で活躍する多くの人材を、送り出してきた。

 論壇の寵児になっている卒業生がいる。1987年生まれの気鋭の経済・社会思想家である斎藤幸平だ。2020年9月に集英社新書の一冊として刊行された『人新世の「資本論」』は、21年に新書大賞となり、新書としては異例の45万部を突破した。

 斎藤は芝高校から東京大理科二類に進学したが、3カ月だけ在籍し、米ウェズリアン大学を卒業、ドイツのベルリン自由大学やフンボルト大学で研究生活を送った。18年には、マルクス研究界最高峰の賞・ドイッチャー記念賞を受賞、当時31歳で歴代最年少、日本人初受賞となった。

 斎藤の著作は、晩年のマルクスの思想を基に、気候変動問題から資本主義の限界を論じ、経済成長以外の道を探ろう…と問題提起したものだ。グローバル資本主義の下で、人類の経済活動が地球全体にインパクトを与える時代だ。折からのコロナ禍というパンデミックも加わって、斎藤の主張は専門学会のみならず、知識層の間で大きな関心を呼び覚ました。

 斎藤は大阪公立大大学院准教授だったが、22年4月からは東大准教授に転籍した。