連日の猛暑で体調を崩しがちな人も多いのではないだろうか。コロナ禍の生活が長く続き、気づかないうちにストレスをためこみやすい。「何もしないのに疲れている」「人間関係にしんどさを感じる」という人におすすめなのが、2022年8月3日発売の『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』だ。著者の精神科医のチョン・ドオン氏は精神科、神経科、睡眠医学の専門医として各種メディアで韓国の名医に選ばれている。本書は「カウンセリングや癒しの効果がある」「心に平和をもたらす本」「心の仕組みを知りたい人にとてもおすすめ」などの感想が多数寄せられている。隠された自分の本心を探り、心の傷を癒すヒントをくれる1冊だ。今回は日本版の刊行を記念して、本書から特別に一部抜粋・編集して紹介する。
幼少期の経験が恐怖を生み出す
恐怖の根っこは幼少時代にあります。
子どものころに苦痛を感じた経験と似たような状況に遭遇したら、また同じ苦痛を味わいそうな気がしてわき起こる感情です。
たとえば、幼少期に高いところから落ちて痛い思いをしたという経験が、大人になってから高所恐怖症を引き起こすことがあります。
精神分析によってこうした因果関係が判明すると、症状はやわらぎますが、それでも防衛機制が活発に作動している間は、恐怖が完全に消えることはありません。
あれこれと口実をつけて、高いところに行くのを避けようとします。
新しい経験によって恐怖を克服するには時間がかかります。
逃げずに目的を果たすといった成功体験で記憶を上書きしていくことによって、乗り越えられるようになるのです。
批判される、コントロールされるという恐れ
もっともよく見られる恐怖症は、「舞台恐怖」という社交恐怖の一種です。
ピアニストや舞台俳優が動悸や発汗のせいで舞台に立てないとしたら、公演どころではありません。
教授が教壇に上がるのが死ぬほどイヤだとしたら、講義をするのは本当につらいことでしょう。
こうした舞台恐怖の裏には、批判されることに対する怖さが隠れています。
幼いころのちょっとした行動をいつも大人が認めてくれて、ほめてくれていたとしたら、おそらく舞台恐怖に苦しめられることはないでしょう。
舞台恐怖は大人に叱られることや、大人が自分のもとを去っていくことを恐れて生きてきた結果なのです。
また、他人と親しくなることに恐怖を感じる人がいます。
仲良くなりたい相手がいるけれど、実際に仲良くなったら、その人にコントロールされてしまうのではないかという気がするからです。
本当の自分を知ったら、相手ががっかりして離れていくかもしれないと不安になる場合もあります。
成功することに恐怖を感じる人もいます。
「私がこんなにうまくいくわけがない」と思ったとたん、恐怖が押し寄せてくるのです。
ネガティブな感情は人に話すことで軽くなる
恐怖から抜け出す唯一の道は、立ち向かって闘おうとするのではなく、恐怖を家族として心の中に迎え入れることです。
恐怖は自然な感情であり、健全な反応です。
自分でコントロールできると信じて恐怖を受け入れれば乗り越えられますが、パニック状態になってしまうと冷静な対応ができなくなります。私たちは常にその境界線に立っています。
恐怖を感じたときは心の片隅に追いやって、人生全体に広がらないように阻止しましょう。そして、残った力で「今、この瞬間」を楽しむのです。
耐えられそうにないと感じたら、身近な人に自分の抱えている恐怖について話してみてください。
あるいは、自分が恐れていることを書き出してみるのも有効です。
文章にすると、それが本当に危険で恐れるべきものなのか、それとも、コントロールできないから怖いのか、その正体が明らかになります。
ネガティブな感情は、他の人に話したり、自分を客観的な視点から見つめ直したりすることによって弱めることができるのです。
(本原稿は、チョン・ドオン著 藤田麗子訳『こころの葛藤はすべて自分の味方だ。 「本当の自分」を見つけて癒すフロイトの教え』から一部抜粋・改変したものです)