同じ出来事に直面しても、ネガティブに捉えて悩んでしまう人と、なぜかポジティブに変換できる人がいます。不安を抱きやすい人の思考の癖は「生まれつき」なのか、それとも後天的なものなのか? 日常で生まれる負の感情の正体を、ハーバード大学医学部准教授の内田舞氏が解説します。※本稿は、内田舞『リアプレイザル 不安や恐怖を和らげる方法』(実業之日本社)の一部を抜粋・編集したものです。
不安を抱くのは、あなたが「弱い」せいではない
「恐怖や不安」という感情を持つことは、生きるために生まれた生存本能の一つだと考えられています。
何万年も前、まだ文明時代ではなかった頃の人間の生活は今より遥かに危険と隣り合わせでした。猛獣に襲われるか、敵に殺されるか、感染症や寒さや飢餓で死ぬか……という過酷な環境下で生き延びるために、あるときには闘う、あるときには逃げるというように、とっさの行動や判断をする必要があったのです。
何かを食べたときに味が変だったから「ペッと吐き出す」なんて行動も生存本能の一つです。腐ったものを食べてしまったら病気になって最悪命を落としかねません。食べ物の良し悪しをじっくり論理的に検討するよりも、好ましいものか好ましくないものかを瞬時に勝手に脳が判断して行動に移すことができた方が生存には有利なのです。
そう、脳が知らずのうちにあなたを動かすのは、何よりも生存のため。最初に「無意識の感情」が沸き起こる。それが恐怖や不安といったものの正体なのです。
昔は、「世の中に怖いものなんてない」と考えるポジティブな人よりも、「怖い」「不安だ」という、今の時代では「ネガティブ」と思われる感情に敏感な人の方が、生物としての生存能力に長けていたわけです。ネガティブな感情は簡単には撥ね除けられないものというのも、生存がかかった感情だからだと理解できますよね。
ここで伝えたいことは、不安という感情を抱くのはあなたが「弱い」せいではないということです。むしろ不安を感じるのは、あなたが必死に生きようとしているからなのです。
生存に関わることなので、人の行動に関して感情の威力は絶大です。しかしながら、現代では猛獣に襲われるほどの危機に遭遇する機会は滅多にありえません。
ネガティブな感情が強すぎると現代生活では困ったことが起きがちです。怒りを止められなくなってしまったり、なんとか抑えたい場面で全身が震えてしまったり、めまいや頭痛、肩こりといった不調が長く続く、あるいはうつ病やパニック障害などの精神疾患につながることもあります。
しかし、よくよく考えると、同じ出来事に直面してもネガティブに捉える人もいれば、あまり影響を受けずにあっけらかんとしている人もいます。どうしてこのような差が生まれるのでしょうか。