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小説以外の著作が希少なベストセラー作家・宮部みゆきが、デビュー36年目にして初の書評集を刊行した。宮部がレビューしたのは総計128冊にのぼるが、今回は家族について書かれた4冊の本の書評を紹介する。本稿は、宮部みゆき『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋・編集したものです。なお、初出は『読売新聞』読書面「本よみうり堂」に掲載されました。

前向きに現実的に力まずに
子供の未来を考えていく

『障害のある子の家族が知っておきたい「親なきあと」』(主婦の友社)
著/渡部伸

 終活はもう耳に馴染んだ言葉だし、今後ますます身近なものになってゆくのだろう。だが、本書のテーマほど切実な終活はほかにあるまい。

 著者は行政書士で、障害のある子を持つ家族のために「親なきあと」相談室を運営している。本書の内容も、その活動に沿った具体的なアドバイスだ。行政による福祉サービスのあらまし、お金の管理や日常のケアとサポートを誰に(どこに)ゆだねるか、子の支援者に資料として残すためのライフスタイルカルテ(略称ラスカル)作成の勧め。

 ひとつひとつ解説しながら、本書を必要とする読者に著者が語りかけるのは、「焦らない」「思い詰めない」そして「何とかなるさ」。どれほど愛情深い親であっても、不死身にはなれない。だから、できるだけ前向きに現実的になりましょう、と。

 本書はまた、障害のある子の家族が胸の内にどんな不安を抱えていて、どういう支援を求めているのかを逆照射する貴重なガイドブックでもある。障害者福祉の現場で働く方々はもちろん、それを支える法制度を作る皆さんも、ぜひご一読を。